トランスジェンダーとフェミニズム ツイッターの惨状に対して研究者ができること

【この記事のキーワード】

研究者に何ができるか

 では、現在の“惨状”といえる状況に対し、研究者に何が出来るでしょうか。

 私は、知り合いの研究者に声をかけ、相談してきました。

 通常、研究者は、何かを分析して自分の意見を言うために、正確な情報を収集することから始めます。今回であれば、いつからトランスフォビック(トランス嫌悪)な言葉が出現するようになったのか、どんな人が発言しているのか、など、時間と手間をかけた「調査」を行い、データを分析します。

 ツイッターは、自分に見える世界(タイムライン)と、他の人が見ている世界にずいぶん違いがあります。声をかけた研究者たちは、自分の位置から見えることだけを手がかりとして、何らかの意見を出すことに戸惑っていました。

 しかし、今回は事情が違います。ツイッターの性差別によって多くの人が傷つき、自死してしまった、そうあってもおかしくない人がたくさんいる状況が目の前にあります。

 私たちは、これまで身につけてきた専門知を使って、混乱している人や、傷ついている人に、差別に立ち向かい、洪水のようにあふれている言葉を整理できるような情報を届けようと考えました。

 飯野由里子さんは論文「共に在るためのフェミニズム」[3]でこのように書かれています。

フェミニズムの中には……わたしにとっても賛同出来ない種類の分離主義があり、近年、その傾向が再燃しているようにも思え、強く懸念している。それは、トランスジェンダーの女性を「女性だけの空間」から分離(=排除)しようとする種類の分離主義だ。もちろん、そうした分離を求める理由の中には、たとえば「過去に性暴力や性被害を受けた女性の中には、同じ空間に『女性的でない(=男性のようにみえる)』身体があるだけで、自分の安全が脅かされているように感じる人がいる」など、場の目的や性質によっては一考の余地を残して置いた方がよいものもありうる。だが、そうした場合でもわたしは、そのことのみを理由に排除という方法を自動的に採用することには慎重であるべきだと考える。なぜなら、トランス女性に対する排除的な思考は、「生まれた時の性別」のみを「正当」なものとみなすような前提を強化する一方で、その他の性別のあり方(たとえば、性自認にもとづく性別)の正当性を掘り崩す効果を持つからだ。したがって、そうした思考は、性別をめぐりわたしたちの間ですでに存在している多様性を結果的に否定してしまっていることになる。(:28)

 この後、飯野さんは、現在の社会でトランスジェンダーは不安定な位置に置かれやすいこと、それは性別二元論批判というフェミニズムの視点から避けねばならないことであるとし、「自分の安全が脅かされているように感じる」女性の不安や恐怖より、「過小に見積もられないようにしなければならない」と論じています。性暴力被害に恐怖を感じる女性と、トランス女性の権利は、どちらが優先されるとか、交換条件をつけて取引されるようなものではないのです。

 私たちはこれから、こうした思考や情報を、#ともにあるためのフェミニズム、というハッシュタグを使って発信していくつもりです。

 「ともにある」という言葉には、シスジェンダー女性を含め、様々な人が含まれます。しかし、今回は特に、トランス女性、トランスジェンダーとともにありたいと思っています。

 いまも眠れない夜を過ごし、自分の体を傷つけることで生き延びているトランスジェンダーがいます。知識や理論というのは、価値観や経験や信念などが対立し、分かりあうことがむずかしくなってしまった時の防波堤になるかもしれません。

 ですので、#トランスジェンダーとともに、というハッシュタグも使いたいと思います。#ともにあるためのフェミニズム、と、#トランスジェンダーとともに、の2つを使って、個人のブログやwezzyで情報を発信し、フェミニズムの情報が集められているWAN(women’s action network)で、記事をアーカイブ化してもらおうと計画しています。ツイッターでの告知もしていく予定です。

 私たちの動きはあまりに遅すぎたかもしれません。それでも、いま動き、差別や排除を止める、その一助になりたいと考えています。言葉は人を殺しますが、生き延びさせるものでもあります。トランスフォビアに抗う言葉を、ともにある人たちに届けたいと思います。

【声明】トランス女性に対する差別と排除とに反対するフェミニストおよびジェンダー/セクシュアリティ研究者の声明

※本記事は「TRANS INCLUSIVE FEMINISM」でもお読みいただけます

[1] 女性とは何か、女性とは誰か、という重要な問題もあるのですが、今回は保留にして書き進めます。
[2] こうした捉え方にはフロイトが影響しています。一方、同時期に、フロイトを批判するフェミニストも数多く現れていました。
[3] 飯野由里子「共に在るためのフェミニズム――クィアとのつながりに目を向けて」『福音と世界』2019年1月号、新教出版社

1 2

「トランスジェンダーとフェミニズム ツイッターの惨状に対して研究者ができること」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。