家庭・身体・経済・市民…すべての指標で女性差別が酷い国としてランキングされた日本

連載 2019.01.13 19:05

女子教育が世界を救う/畠山勝太

 今回は前回の続きで、OECDが発表した社会制度・慣習とジェンダー指標(SIGI)という女性差別に関する報告での、他の先進諸国と比較した時の日本の立ち位置について紹介していきます。

 前回は4つある項目の中で、家庭内での差別について触れました。今回は残りの3つの項目について紹介していこうと思います。前回と同様にランキングだけを見るのではなく、その順位が付けられた指標に注目していきます。

身体的な自由さ

 まずは女性の身体的な自由さの項目についてです。この項目では、女性に対する暴力・女性器切除・女子が選択的に中絶されていないか・女性のリプロダクティブヘルスの選択権という指標を使っています。

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 この項目では、日本はイギリスに次いで先進諸国の中で2番目に女性差別が酷い国として位置づけられています。ただし、この項目は見た目ほど日本の実態は悪い位置にいないはずです。

 例えば、指標の中に「女性器切除に関する法整備」が入っています。おそらくこの単語すら知らない日本人が大半でしょう。この問題は、主にアフリカとアフリカからの移民を受け入れられている国々で見られるものです。字数の都合で詳細は割愛しますが、ぜひリンク先の記事などをご覧になって、世界にはこういった問題もあるんだと知ってもらえると嬉しいです。

 これはあらゆる世界ランキングに見られる問題ですが、全ての対象に関連するわけではない指標が考慮されてしまうため、課題がないにもかかわらず、対処が不十分だとして不当に低い評価を受けてしまうことがあります。女性器切除に関する法整備はまさにこの典型です。

 懸念材料もあります。女性に対する暴力は、法整備・態度・実態の3要素が指標として扱われています。日本の場合、態度・実態はそこまで酷くはないものの、法整備で遅れが見られます。前回の記事で言及したように、法整備は5段階で評価されています。さすがに先進諸国の中にこの項目で一番下の評価を付けられている国はありませんでしたが、日本は下から二番目の評価が付けられており、法整備が不十分という評価を受けています。

 以前の記事でも紹介しましたが、日本は女性の国会議員割合が低いだけでなく、裁判官の女性比率が極端に低いように司法における女性の少ない国でもあり、この問題について司法から立法への働きかけも不十分なのかもしれません。

経済的なリソース

 次に経済的なリソースにおける女性差別の度合いを見ましょう。ここでは、不動産・動産の所有権、金融へのアクセス、職場での権利の4指標が使われています。

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 やはりこの項目でも日本は先進諸国の中で女性差別の酷い国に位置づけられていますが、最大の懸念材料は職場での権利です。これまで連載の中でも、日本の女性は教育水準やスキル水準に対して賃金が安過ぎるという話や、持っているスキルが職場で十分に活用されていないという話をしてきました。そして、この指標に日本の女性を取り巻く現状が反映されています。

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 職場での権利について女性が差別されていないか、法整備の側面からOECD諸国が5段階評価を受けています。約半数の国は5段階評価の一番上、即ち全く女性差別が無いという評価を受けています。そのような中で日本は5段階評価の一番下の評価を与えられています。

 また実態という点に関して女性管理職の割合を用いて評価されていますが、図3が示すように、日本の管理職に占める女性割合は僅か13%と、10%の韓国に次いで先進諸国の中で最低水準にあることが分かります。

 他の指標については法整備的にも大きな問題は無いし、実態についても他の先進諸国と同じような位置にいました(やはり先進諸国と同様にアフリカやアジアの低所得国も評価するために指標を選定しているので、先進諸国にはあまり関連しない指標が入ってしまっていると言えます。所得水準や地域で区切らない全世界のランキングを作るのは難しいということが分かりますし、ランキングの順位だけをみても意味がないことも分かります)。

市民としての女性の自由さ

 最後の項目は、市民としての女性の自由さです。この項目では、市民権・政治参加・移動の自由・司法へのアクセスの4指標が評価されています。

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 日本は先進諸国の中で5番目に酷い位置付けにいます。この項目の中で目を引くのは、政治参加についてです。

 まず法整備ですが、半数近くの国が5段階評価で一番上の評価を得ているにもかかわらず、日本は上から三番目と、女性の政治参加について法整備が十分ではないという評価を受けています。さらに態度についても、日本では約30%の人が「全体として、男性の方が女性よりも政治的指導者として優れている」という質問にその通りだと回答しています。この割合は、データの存在する先進諸国の中では5番目に高い割合となっており、国民の政治的な態度が女性の政治参加を阻害する一因となっていることが読み取れます。

 女性の衆議院議員の割合についても、下の図5が示すように、日本の衆議院議員に占める女性の割合は約10%であり、先進諸国の中ではハンガリーに次いで低い値となっています。どの先進諸国も均衡点には達していないのですが、そのような中であっても平均値からさらに20%%近くも低い日本は政治参加において極めて女性差別が大きい国だと言えるでしょう。

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 他の指標については、先ほどの項目と同様に、それほど先進諸国には関連する項目ではないので、詳細は割愛します。

まとめ

 国際比較可能な指標の寄せ集めというものは指標の選択やその重みづけ、計算方法など大きな課題を抱えるものであり、それそのものでは使い道が無いか、それを有難がる人達の存在によって初めて価値を持つという代物であることが多いです。しかし、複合指標にするのではなく、分解することでこの国際比較可能な指標の寄せ集めはその真価を発揮します。このOECDのSIGIも例外ではないでしょう。

 前編の冒頭で、総合評価において4項目それぞれが平等に重みづけされていること、そして各項目内で全ての指標が平等に重みづけされていることを、手法的に問題があるのではないかと指摘しましたが、図らずも日本の状況は私の予想が間違っていたことを示しています。女性差別は、「家庭内での女性差別」・「女性の身体的な自由の無さ」・「経済的な女性差別」・「政治・司法における女性差別」が密接に関連して発生しておりどの要因も重要である、というOECDの主張を日本社会が最もよく体現していました。

 総合スコアで日本は女性差別が酷い国であるということ自体はそれほど有用性がありませんが、これを構成する4項目全てで日本は女性差別が酷い国であると位置づけられているのは、日本の女性差別が全方位で酷い状況にあることを示しており、重要な示唆を持ちます。1項目の特定の指標が足を引っ張って全体スコアの位置付けが悪くなっているのであれば、その問題に取り組むことによって少なくとも見た目の女性差別の状況は改善することができます。しかし、全項目で女性差別が酷い状況にあるということは、あれかこれかのような小手先だけの改革では、見た目の女性差別の状況すら改善できないことを示唆しているでしょう。

畠山勝太

2019.1.13 19:05

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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