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コミケは差別と対峙できるか? ヘイトスピーチへの反対表明すら「表現の自由」を掲げ抵抗する声の大きな人たち

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Thinkstock/Photo by tranthanhepu

1. 「差別張り紙事件」の顛末

 2018年末から2019年にかけて、現代における人種差別や性差別の現状をまざまざと見せつけられる事態が次々と起こっています。例えば、高名なフォトジャーナリストである広河隆一による性暴力事件、『週刊SPA!』(扶桑社)における「ヤレる女子大生」なる特集の発覚、山梨大学学長によるヘイトスピーチを含む新年のあいさつなどです。

 それと並行して、政府の動向に反対する女性芸能人や学生の行動が大々的なバッシングにあったりと、社会的に弱い立場の人々が声を上げることに対するバッシングも後を絶ちません。

 そのような状況の中で、私も所属している、同人誌の世界においても、そのような問題が起こりました。それは、2018年末に東京ビッグサイトにて開催された「コミックマーケット95」において、「中国人・韓国人お断り」という張り紙がなされていたことです。これを見た参加者が、コミケ後の「反省会」において主催者である「コミックマーケット準備会」に見解を問うたところ、「準備会から口出しをすべきではない」という回答を行ったという報告がありました。この反省会を「実況」していたツイッターユーザーは、準備会の見解として下記のようなものが出てきたことを記録しております。

《どういう方法で頒布するかはサークルの判断と責任に委ねている。日本の法律に違反していない以上、準備会からは口出しする案件ではないと思う》
https://twitter.com/telephony_text/status/1080139640898650112

《日本の法律に明確に反してない以上、準備会としては踏み込めない。それはその当事者が責任を取るべきことではないか?》
https://twitter.com/h_wiz/status/1079683595617263616

 このような準備会の態度は、「最低限の『人種差別はいけないことだ』という見解を示すこともできないのか」ということで問題視されました。1月初頭には、「コミックマーケットでの外国人差別を防ぐ対策をお願いします」という署名活動がネット上で行われました

 準備会は、そのような張り紙は日本の法律に明確に反していないという見解を示しましたが、そもそも「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ対策法)が2016年に公布・施行されており、(同法に罰則はありませんが)ヘイトスピーチは違法であるということは示されています。

 私も、2015年に開催された「コミケットスペシャル6」において、主要なテーマとして「国際化」を掲げていた以上、このような行為はいけないことだということを表明すべきだと述べました。少なくともコミケに代表される同人文化が国際的であることを示す以上、「クールジャパン」としてちやほやされる状況を誇示するのではなく、同人文化の側もまた「世界」と向き合うべきだと考えます。

 このように、当初問題視されていたのは、張り紙の内容よりも(部外者によるサークルスペースの撮影は禁止されており、また当該張り紙を掲示したサークルにも「撮影禁止」が掲げられていた)、そのような張り紙を許容するような準備会の態度、そして準備会のヘイトスピーチに対する見識の低さでした。

 一方で、このような抗議に反対する側は、記憶情報であることに起因する目撃証言の食い違い(例えば「小さい紙に殴り書きだった」などといったものなど)を殊更に上げて、そもそもそのような張り紙があったということそれ自体が事実ではない、我々のような「ヘイトスピーチ反対」を掲げてコミケを潰そうとする集団による悪質なデマだ、ということを主張しました。

 しかし反省会を実況していたアカウントは、《あの系の話って面倒なことになり得るからあまりしたくない》《オイラは貴重な「証言者w」な訳だが、同時にまとめ主のようなヘイトスピーチ警察は大嫌いな人間だよ》と、どちらかと言えば反・反ヘイトスピーチ的なことを述べており、コミケを潰すために悪意を持ってデマを流すインセンティブに乏しいことがわかります。また繰り返しになりますが、そもそも最初に問題視されていたのはヘイトスピーチを容認するような準備会の態度のはずでした。

 その後、準備会はアフターレポートで、そのような張り紙はコミケという場に相応しくないという見解を示しました。

 こうして、コミケット95の会期すべてが終わったわけですが、会期終了後の反省会(準備会スタッフ以外に撤収に協力していただいた一般・サークル参加者も多数参加しています)の質疑応答において、サークルスペースにて「中国人・韓国人お断り」を貼っているサークルがあるとの情報が寄せられました。会期中、準備会はこのような事実は把握しておらず、反省会の質疑で初めて知ったものです。貼り紙の写真などもなく、反省会での発言以外に情報がない状態でしたので、準備会としては「サークルは、自分の頒布物をどう頒布するかを決める。その際、日本の法律に反しないのが1つの線引きである。基本的にはサークルの責任であり、それで批判をうけるのもサークルであり、サークルと一般参加者間の問題である」旨の回答をしました。これは、サークルと一般参加者間の原則論を述べた上で、貼り紙の内容については当然にサークルが責任を引き受けなくてはならない旨を述べたものです。その後、内部での議論を重ねた結果、準備会としては、差別を容認しているわけではなく、このような貼り紙はコミケットという「場」には適切ではなく、今後、準備会として事実を認知した際には、サークルに貼り紙を取り下げてもらうなどの対応を取るべきと考えています。お詫びして訂正させていただきます。

 このような態度は、少なくとも最低限の理念を示せたということについて、高く評価すべきだと思います。この問題に取り組んでいた人たちの望んでいたことは「差別に反対する」という最低限の表明であり、それを満たすには十分なものでした。前述の署名活動も、この見解が出されたことによりいったん終了しました。

 しかしこの見解が出てから、「デマによる組織的なコミケ潰し」という言説に代わって支配的になったのは、「問題を多く起こしている韓国人や中国人に対する自衛」というものでした。例えば、2010年の東京都における、いわゆる「非実在青少年」という文言が入った青少年健全育成条例に都議会民主党のメンバーとして反対した吉田康一郎元都議は次のようにツイートしています。

(「今年」は「今回」の間違いと思われる)

 この「500ウォン硬貨を用いた詐欺」というものそれ自体は、コミケのたびに流通する話です。しかし、この話それ自体が、変造500ウォン硬貨の自動販売機での使用が問題になっていた時代からの「ネタ」だという指摘や、そもそもそのようなことを行う人が本当に韓国人と決めつけることができるかどうか、それ以前に、特定の犯罪と特定の民族を結びつけるという行為そのものが許されるものではないことが理解されていません。

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