コミケは差別と対峙できるか? ヘイトスピーチへの反対表明すら「表現の自由」を掲げ抵抗する声の大きな人たち

【この記事のキーワード】

4. 「差別に反対するオタク」が声をあげるために

 ここまで見たとおり、「表現の自由」をめぐる議論は、フェミニズムへの反発(ないしバックラッシュ)を持ち、その理路で「ヘイトスピーチも言論の自由に含まれる」「ヘイトスピーチ規制は言論弾圧」だとする層がいまだに支配的ですが、他方でオタク文化を受容する層もまた一枚岩ではないということも既にいくつかの研究が示しております。例えば、北田暁大らの『社会にとって趣味とは何か』(河出ブックス、2016年)においては、ジェンダー意識において、女性で二次創作を好むオタク的情報行動の強い層(腐女子)と男性で二次創作を好むオタク的情報行動の強い層では、ジェンダー意識において対極的と言えるほどに大きな差が出ていることを示しております(pp.284-302)。

 オタク層の中にも、ジェンダーによる社会意識の差があることについては私も思うことがあり、私の性差別や人種差別に反対するツイートは、プロフィールに「腐女子」「成人済み腐」などと書かれているアカウントがリツイートすることをよく見ます。オタク層であっても、女性、ないし男性向け表現の「お約束」に反対する層に対して、「ただの感想」といった批判は少なくありません。

 コミケの張り紙問題において、「コミケは差別者の楽園になったのか」と嘆く層も見られましたが、私がそのような感想を持たなかったのは、「表現の自由」、そしてコミケのあり方をめぐる問題が、反フェミニズム、そして反・反ヘイトスピーチに親和的な層の大きな声によって左右されすぎており、「差別に反対するオタク」層の存在が切り捨てられているのではないかと思ったからです。

 しかし、再度強調しますが、女性向け表現ないしその中にいる女性に対しては、かねてから多くの加害が行われてきました。例えばある女性アイドル育成ゲームにおいては、2009年にシリーズ2作目が稼働される際、一部のキャラクターがプレイアブルから外されることもさることながら、ライバルとなる男性キャラクターが登場することから猛反発を受け、その男性キャラクターのオンリーイベント(女性向けが中心のイベントのプチオンリーとして開催されたり、個人開催のものもある)の参加者や主催者に脅迫状が届いたりしていました(川泉ポメ『イベントを主催したら脅迫が来て警察沙汰になりました。総集編』Penny Lane、2015年)。

 「表現の自由」を叫ぶ層は、ヘイトスピーチへの最低限の反対の表明についても「表現の自由の敗北」「なし崩し的に規制される」と言います。しかし、何が控えるべき表現であり、何がそうでないかについては、社会の状況に応じて一人一人が考えるべきではないでしょうか。何も考えずに、ただ声の大きい層の脅迫めいた言説に従うことこそが、危険だと考えます。
(後藤和智)

1 2 3 4

「コミケは差別と対峙できるか? ヘイトスピーチへの反対表明すら「表現の自由」を掲げ抵抗する声の大きな人たち」のページです。などの最新ニュースは現代を思案するWezzy(ウェジー)で。