健康

「市販の薬で記憶が蘇る」という驚きの研究結果に飛びついてはいけない

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市販薬で人の記憶が回復した

 それでは人の場合はどうか。実験では20代~40代の男女38人の参加者に、予め100枚の写真を見せておいた。そして1週間後に、予め見せておいた写真と類似した写真、および見せていなかった写真を見せてみた。

 その結果、ヒスタミンの分泌促進作用がある市販薬「メリスロン」(めまいの治療薬)を飲んだ場合と偽薬(プラセボ)を飲んだ場合とでは、正解率に差が見られたのだ。

 メリスロンを飲んだ場合の方が、正解率が最大で2倍近くに上昇することがわかった。さらに2つの興味深い結果も出た。1つは、もともと記憶成績が悪かった参加者ほど、記憶回復の効果が強く出たということである。

 そしてもう1つは、以前に見た写真かどうかの判別が困難な写真ほど正解率が高まったのだ。

記憶回復の鍵はノイズ?

 なぜ、このような現象が生じたのか。研究者らによれば、ヒスタミンが記憶を回復させる仕組みは、神経回路にノイズを加えているようなものではないかという。

 記憶を思い出すという活動は、その記憶を担当している神経細胞が選ばれて活動することで思い出される。そこでヒスタミンによって神経細胞を全体的に活動させるノイズを加えると、該当箇所の記憶が鮮明に浮かび上がるというのだ。

 これはかなりわかりづらい。そこで、同発表ではイメージ図で説明している。たとえば白い紙に立方体の図形が灰色の線で描かれているとする。灰色の線をよく見ると、細かな黒い点の集まりだ。これは、記憶が薄いことを表現している。

 この紙の上に、全体が灰色のフィルムを重ねてみる。これが神経回路にノイズを加えた状態だ。すると、立方体を描いていた灰色の線と、フィルムの灰色が干渉しあって(つまりお互いの隙間を埋め合って)、黒く濃くなった立方体の線を浮かび上がらせるのだ。

 これが神経細胞全体にノイズを加えることで、記憶が蘇った状態である。

 ところが、もし白い紙に描かれていたのが明確な黒い線で描かれた立方体だった場合は、灰色のフィルムを重ねることで、かえって鮮明さを失ってしまう。実際、今回の実験でも、もともと成績の良かったグループの正答率は約60%から約40%に下がってしまったのだ。ちなみに、最も成績が悪かったグループの正答率は約25%から約50%に倍増している。つまり、メリスロンを飲めば、誰もが記憶を回復するとは限らないことがわかる。

アルツハイマーや認知症の治療薬開発に貢献

 今回の研究成果は、すでに市販されていた薬が記憶回復に効果があったという驚くべニュースとして報じられた。だが、重要なことは、ヒスタミンと記憶回復の関係というメカニズムの解明に近づいたことだ。

 この研究が進み、より詳しく記憶回復のメカニズムが解明されれば、アルツハイマーや認知症の治療薬開発の大きなヒントになる可能性がある。

 このニュースを聞いた人の多くが、さっそくドラッグストアに立ち寄ってヒスタミン分泌促進系のめまい薬や乗り物酔い薬を購入したかもしれない。しかしすでに紹介したように、実験では逆効果が表れた人たちもいたことに注意してほしい。薬は正しい使い方を心がけなければならない。

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