早くも始まった2020大統領選!〜トランプの天敵が続々と立候補

文=堂本かおる

連載 2019.01.17 17:05

アメリカ史の大きなうねり

 上記の2人は女性とヒスパニックだ。これから出馬するであろう政治家たちにも女性、人種民族マイノリティ、非クリスチャンが多い。この多様化は、いわばトランプのおかげである。トランプは自身と同じ属性の者(アメリカ人/白人/男性/異性愛者/クリスチャン)以外を排除する。ただし妻メラニアは移民であり、娘イヴァンカは夫クシュナーとの結婚に際してユダヤ教に改宗している。ニューヨークにはユダヤ系人口が多く、ここで不動産業を営むにあたってトランプは多くのユダヤ系とビジネスをおこなってきている。だが、根底では移民/黒人やヒスパニック/女性/LGBTQ/イスラム教徒を蔑み、受け入れることをしない。過去の言動や政策から、火を見るより明らかだ。

 先日、ハーレムで「黒人女性の94%がトランプに反対票を投じた」と書かれたTシャツが売られていた。2016年の大統領選で投票した黒人女性のうち94%がヒラリーに投票しており、そのデータに基づくフレーズだ。トランプとその支持者が「黒人」と「女性」を蔑視していること、自分はその両方のカテゴリーに当てはまることを、当の黒人女性たちは誰よりも知っていたからこその数値だ。さらに黒人女性で移民/LBT/イスラム教徒であれば、彼女たちの今の生き難さは一体どれほどであろうことか。

 アメリカ合衆国大統領がこのような人物であることに耐えられなくなり、かつ、これは本来のアメリカではないと考える政治家たち、特にマイノリティが意を決して今回、立候補しようとしているのだ。トランプのキャッチフレーズ「Make America Great Again」を、まさに実践しようとしているのである。

 実のところ、これはトランプのおかげなどではない。アメリカの歴史の大きな流れの一部であり、直接的にはオバマ元大統領の出現に基づく。アメリカはネイティヴ・アメリカンが暮らしていた大地にヨーロッパからの入植者がやって来たこと、彼らがアフリカから黒人を奴隷として強制連行したこと、それと前後して世界中から移民が押し寄せたことにより出来ている。

 建国前からこれほどの多様性を持ちながら、国をコントロールするのは常に白人だった。その流れを目に見える形で変えたのがアメリカ合衆国第44代大統領となったバラク・オバマだった。黒人大統領の出現はアメリカに大きなショックを与えた。マイノリティの多くは歓喜の涙すら流して歓迎したが、肌の黒い大統領をどうしても受け入れられない者も少なからずいた。一般市民はおろか、共和党の政治家からもオバマ大統領への人種差別言動が多々あり、任期中に全米の人種差別団体の数も増えた。

 当初、黒人大統領の存在に砂を噛む思いをした人種差別主義者たちは、オバマ大統領の再選後はさらなる怒りを募らせた。大統領に立候補したトランプが当初の予想以上に支持された理由には景気や失業の問題も含まれ、人種問題だけではない。同時にトランプ支持者の全てが人種差別主義者ではない。だが、根底にはアメリカに深く浸透している強固な人種問題があり、それが表出した。トランプが当選し、アメリカ合衆国第45代大統領となった。つまり、今は大きな揺り戻し現象の最中なのだ。

空港の危機〜政府閉鎖による混乱

 トランプがアメリカ政府を閉鎖してからすでに3週間以上が経つ。米国史上、最長の閉鎖日数記録を更新中だ。閉鎖の理由は、前回の記事を参照いただきたい。

アメリカにはいつも希望がある~国民を脅迫するトランプ大統領と、多様化した民主党の下院議員

 2019年初のアメリカ政界は民主党と共和党のコントラストが際立った。民主党はビビッドな色のスーツと満面の笑顔。共和党はどん…

ウェジー 2019.01.10

 1月12日は給与支払日だった。連邦職員たちは支給額「$0」と書かれた給与明細を受け取った。給与の低い職員、多額のローンを抱えるなど閉鎖前から経済的に苦しかった職員は今、胃痛に苛まれる日々を送っている。「すでに家賃の支払いが滞っている。これ以上溜めると追い出されるから、車を売って支払うしかない」「病を抱えているが、薬代が出せない」など、職員の悲痛な声が連日、報道されている。

 全米あちこちの空港で、無給では働けない空港職員(TSA-米運輸保安庁職員)が大量に欠勤している。ターミナルの閉鎖時刻を早めざるを得ない空港が出始めている。乗客のスクリーニングにも支障が出ている。今月3日、米アトランタ発のデルタ便で成田空港に到着した乗客が短銃を所持していた。スクリーニングの不備によるものだが、TSAは政府閉鎖とは関連のない出来事としている。何れにせよ、トランプ曰く「国境警備を厳格化するための壁」のために、空港での警備がおろそかになっているのである。

 全米の連邦職員80万人に、連邦と業務提携している企業やNPOの従業員を加えると約100万人。総人口3.3億人のアメリカではそれほど大きな数に思えないが、彼らが無給であることから派生する経済的ダメージも、実は全米に影響を及ぼすと専門家は言う。そもそも連邦職員と聞けば、最も安定した職業に思える。だが、トランプ政権下ではたとえ政府に雇用されても一寸先は闇なのだと思い知らされたことになる。今、アメリカは国家としての不安定さを国内外に喧伝していることになる。その不安定さを生み出しているは、ほかならぬアメリカ合衆国大統領なのである。

 だからこそ、テレビのコメンテイターが「出馬者、500人くらい?」とジョークを飛ばすほどの候補者が出る。ここにアメリカのタフさ、健全さがある。アメリカ大統領選は2年もの長期間、膨大な金額を湯水のように使うお祭り騒ぎだ。その在り方に疑問はある。だが、今のアメリカにはそれが必要なのだ。マイノリティがトランプと現政権に反旗をひるがえす勇気を持ち、同時に冷静な選挙プランを練り、我慢強く実践し続け、2年後に「アメリカを取り戻す」のだ。
(堂本かおる)

追記:ハワイ選出のタルシ・ガバード下院議員は1月11日にCNNに出演した際、翌週には大統領選への出馬を正式に表明するとしたが、その直後に出馬困難な事態を迎えてしまった。父親が「ホモセクシャルをカウンセリングによって治す」団体を設立しており、議員も過去にその活動に加わり、かつアンチ・ゲイ発言をおこなっていたことが報じられたのだ。最高裁で認められた同性婚を再び禁止したいトランプに対抗するためにも、民主党はアンチ・ゲイの候補者を支援するわけにいかず、ガバード議員は非常な苦境に立たされている。米国大統領選の風物詩とも言える混乱が早くも起きたのである。ガバード議員は白人とサモアの血を引くヒンドゥ教徒。

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