人々のトランスジェンダー嫌悪が少なくなれば、ジェンダー平等感覚の形成は進む

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2-2 モデルに年齢と性自認を足してみる

 しかし、次のような疑問が出るかもしれませんね。

 「トランス女性へのフォビアは、年齢が高いほど強いのではないか」「また、ジェンダー平等感覚は年齢が高いほど弱いのではないか」「であるならば、『トランス女性へのフォビア』と『ジェンダー平等感覚』の間に見いだせる負の関係性は、『年齢』の影響を受けているにすぎないのではないか?」

鋭い指摘だと思います。私たちの調査でも、ジェンダー平等感覚と年齢に関係性が見いだされています。また、性別との関係も見いだされています(女性自認より男性自認※の人の方が、ジェンダー平等感覚が弱い人の割合が多く、トランス嫌悪が強い人の割合も多い)。

※なお、回答者の1,259人中、戸籍の性別は、男性が585人、女性は674人でした。 性自認もたずねていて、トランス女性、トランス男性にあたると調査グループが判断した回答者は各1人でした。よって、各1人を入れ替え、男性自認を持つ人・女性自認を持つ人の数を、585人・674人としました。以降、本稿での「男性の性自認を持つ人」とは、ほとんど「シス男性」のことを指しているものとしてお読み下さい。調査においてどんな風に「戸籍の性別」や「性自認」を聞いたのか、分析において性自認を男/女の2値としたことに妥当性はあるのかについて、関心を持たれる方もきっといらっしゃることと思います。報告書の203-204ページに詳しく書かれています。お読みください。

 そこでモデル2では、トランス女性フォビアに加え、性自認と年齢を説明する側(説明変数)において、ジェンダー平等感覚の説明を試みました。以下行っている一連の分析は「重回帰分析」と呼ばれるもので、他の説明変数の影響を排したその変数の正味の影響力を知ることができます。すなわち、「トランス女性フォビア」に影響を与える「年齢」や「性自認」の影響力を取り去って(このことを「統制」と言います)、トランス女性フォビアがジェンダー平等感覚に与える正味の影響力を知る分析をします

 結果、性自認が男性であったり、年齢が高かったりするほど、ジェンダー平等感覚が弱くなる、つまり負の効果をもたらすことが分かりました(図表1のモデル2の列を縦にお読みください)。しかし、トランス女性フォビアもジェンダー平等感覚を統計的に説明する負の効果として残りました。つまり、年齢と性自認で統制してもなお、トランス女性フォビアが強いとジェンダー平等感覚が弱くなる(トランス女性フォビアが弱いとジェンダー平等感覚が強くなる)という結果が見いだされたのです。

2-3 モデルに学歴と収入を足してみる

 さらに次のような疑問も出るかもしれませんね。

「学歴が影響を与えているのではないか」。

「収入が影響を与えているのではないか」。

 そこで、モデル2の説明変数に、「教育年数」と「世帯年収」を加え、「モデル3」とし、これらの説明する変数を投入したときに「ジェンダー平等感覚」を説明する変数として何が残るのか、を調べてみました

 結果、「世帯年収」は説明変数として残りませんでしたが、新たに「教育年数」が正の効果として残りました(図表1 青色)。つまり、教育年数が高いほど、ジェンダー平等感覚が強い、という結果が見いだされました。

 もちろんこれは集団に対する統計上の分析なので、「学歴が高い人はすべてジェンダー平等感覚が強い」とか「学歴が低い人はすべてジェンダー平等感覚が弱い」という命題が導かれるわけではありません。また、私は原因を学歴に還元したいのではありません。図表1のモデル3の列を縦にお読みください。

 「トランス女性へのフォビア」「年齢」「性自認が男性」という変数が、依然オレンジ色の説明変数として残っています。ここからわかるのは、たしかに、「ジェンダー平等感覚」は「教育年数」の正の影響を受けているがその効果を取り除いてもなお、「トランス女性へのフォビア」は残り、それは「ジェンダー平等感覚」に対して影響を与えている、ということです。すなわち「トランス女性フォビアが強いのは、高等教育を受けていないからだ」に還元されないのです

 図表1の「モデルの調整済みR2乗値」もご覧ください。値が0.281→0.298→0.305へと上昇しています。「R2乗値」は、その時採用したモデルがどの程度現象(「説明される変数」。今回の場合「トランス女性へのフォビア」)をうまく説明するかを表した数値です。「0」から「1」の範囲で値は算出され、「0」が0%、「1」が100%です。モデル3では現象の解読に約3割まで迫ったということです。経済学や心理学と比べ、社会調査には様々なノイズが入り、考慮すべき変数も多いとされています。この少ない変数のセットで「0.305」という結果は、現象を割とうまく表していると言えます。もっとも、単純なモデル1で、すでに「0.281」です。性自認や年齢、教育年数より、トランス女性嫌悪がジェンダー平等感覚にいかに大きな影響を与えているのかが分かります

 重回帰分析の結果を図で読める人のために、図表3を用意しました。「0.00」より左が負の影響、右が正の影響です。

人々のトランスジェンダー嫌悪が少なくなれば、ジェンダー平等感覚の形成は進むの画像4

図表3(統計に興味のある方に:黒丸が点推定、直線が95%区画推定です)

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