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「オレの体のせいで彼女と結婚できない」は社会のせい

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トランス男子のフェミな日常/遠藤まめた

 昨年、ある医学部で学生たちに、こんな問いかけをした。

「29歳のトランス男性が、交際3年の彼女の両親から結婚しないのかと執拗にせまられて、性別適合手術を受けるか悩んでいる。あなたならどうしますか?」

 補足しておくと、今の日本では戸籍上同性どうしだと結婚することができない。彼が戸籍の性別を変更するためには卵巣を摘出することが性同一性障害特例法で求められている(あまりに侵襲性が高いペニス形成は必須ではない)。ホルモン療法によってヒゲが生え、声変わりした場合であっても、この手術を受けない限りは戸籍上が女性であるため、就職活動や家を借りること、身分証を出す様々な場面で奇異の目を向けられたり、彼女と結婚することは不可能だったりする(恋人が彼氏なら「妻」として結婚できるけれど)。このような事情から身体違和の解消目的よりも法律のために手術を選ぶ当事者は少なくない。さて、どう考えたら良いだろう。

 きっといろいろな意見があるだろう。「結婚しても離婚するカップルはいる」「彼女とうまく行かなくなったらどうするのか」…就職活動の前に戸籍変更したいと主張する当事者に対しては、戸籍の性別変更をしなくても希望する性別で働いている人の情報も必要かもしれない。いろんな当事者の話を聞いてみるのは少なからず参考になる。それでも手術要件がある限りは、戸籍の性別に消耗し、法律に身体を合わせる決断をする人たちはいる。やはり悩ましい。

 先日出された最高裁の決定は、この問題について正面から向き合ったものだった。今回特例法の「手術要件」は現時点で合憲とみなされたものの、かなり課題があり、今後も憲法適合性については「不断の検討」が必要とされた。最高裁は「性同一性障害者によっては、上記手術まで望まないのに当該審判を受けるためやむなく上記手術を受けることもありうる」との現状を認めた上で、手術を選択する以外に「切実ともいうべき重要な法的利益」に当事者がアクセスできないことの課題を指摘した。トランスたちには手術を受ける権利も、手術を受けずに生きていく権利も、同様に保障されるべきだと背中を押してもらえたような気がした。

 私は31歳で、性別適合手術の予定のないトランス男性である。法的な性別変更をしないとトランスたちはすごく苦労をするんだよ、と冒頭では書いたものの、たまたま仕事とパートナーに恵まれたから、自分の戸籍の性別について常日頃考えなくても生きていける状態にある。でも、それはたまたまラッキーだったからだ。冒頭の29歳のトランス男性は、ひょっとしたら自分だったかもしれない。もしもトランスであることを理由になんども内定切りされていたら。もしも、恋人との交際を諦めさせられる状況が続いたら。戸籍の性別は鉛のように重たいものになり、トランスである自分のことをもっとネガティブに捉えていたようにも思うのだ。

 特例法の改正は、もう少し先になるかもしれない。でも、戸籍の性別によって結婚や就職が制限され、著しい不利益を被るような状況は特例法の改正でなくても変えていくことができる。来月には同性カップルが婚姻の平等を求めて一斉に訴訟を始めるそうだ。誰もが好きな人と結婚できる社会になれば、トランスたちが「オレの体のせいで彼女と結婚できない」と自己嫌悪する場面はなくなる。戸籍の性別で消耗しなくてすむ社会が早く来ることを願う。

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