明日会社が行くのが憂鬱な人は『ハケン占い師アタル』に占ってもらおう

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 連続ドラマ『ハケン占い師アタル』(テレビ朝日系)が、予想以上に面白い。このドラマは、杉咲花演じる派遣社員・アタルが、他人の「あらゆるものが見える能力」を駆使して同僚たちの悩みを解消していくお仕事コメディーだ。

 脚本・演出は、『家政婦のミタ』『女王の教室』『過保護のカホコ』など、数々の問題作を生み出してきた遊川和彦。心を抉られるようなテーマは健在だ。手厳しいが熱い心を持つアタルが、ドン底に陥った同僚にカツを入れ、「救い」と「勇気」を与える場面には深く心を揺さぶられてしまう。決して甘くはない、新感覚の癒やし系ドラマが誕生した。

「自分」を主張できない神田が一歩を踏み出す

 第一話は、他人に合わせてばかりの先輩社員・神田和実(志田未来)がメイン。自分の意思を主張できず、何を言われても愛想笑いを浮かべる神田は見ていてイライラが募ってくる。パワハラまがいの上司と言い方がキツすぎる先輩に囲まれ、唯一の癒やしであるはずの彼氏でさえ身勝手。

 彼らは神田が主張しないことを良いことに言いたい放題である。しかし、神田を見ているとそれも仕方ないことだと思えてしまう。他人に合わせすぎる彼女には「自分がない」のだ。気持ちが見えない相手をどうやって気遣えというのか。

 モヤモヤしたまま物語は進み、「まさかこのままで一話が終わるのか?」と一抹の不安が胸をよぎる。しかし、事態はもっと悲惨な方向へと進んでしまう。なんと神田は大事なイベントでとんでもない大失態をやらかし、挙句の果てに妊娠を打ち明けた彼氏には中絶を提案されてしまうのだ。

 八方ふさがりの彼女は、アタル(杉咲花)が占い師であることを偶然知り、助けを求める。しかし、ドン底の神田に対しアタルは辛辣。神田の愛想笑いを「演技がくさい」と言い放ち、「このままだと一生友達ができない」と警告する。

 的を射たアタルの鑑定。まるで自分に言われているようで胸を締めつけられた視聴者もいるだろう。誰にでも神田のように愛想笑いをして取り繕ってしまう経験はある。自分に自信が持てなくて決断できない局面だってある。優柔不断な神田にイライラさせられるのも、心を抉られるような気持ちになるのも、すべて身に覚えがあるからなのだ。

 アタルは続ける。

「あんたさ、他人に胸を張れることは、ひとつもないと思ってるかもしれないけど、それ違うから。そんな人間この世界に一人もいないから! 誰にでも必ずあるんだよ。自分にしかできないことが」

 この言葉に後を押された神田は、一念発起。職場の皆に妊娠をしたことを告白したうえで、仕事でミスをしてしまったがこれからも皆と一緒に働きたい、と強い想いを伝えるのだった。

何をやってもダメなコネ入社の目黒に救いはあるか

 続いて第二話は、コネ入社のお坊ちゃま社員・目黒円(間宮祥太朗)にフォーカスした内容。ヤル気とは裏腹に失敗続きの彼は、仕事は雑用ばかりで、婚活アプリではフラれっぱなしという冴えない毎日を送っていた。しかし、そんな目黒にも千載一遇のチャンスが! チームの部長・代々木匠(及川光博)から特撮ヒーロー番組『キセキ戦隊ミラクルヒーロー』の新グッズを発表するイベントのコンペ参加の指示がおりてきたのだ。『ミラクルヒーロー』の大ファンである目黒は、周囲の不安をよそに立候補。

 張り切って企画書を作るが頑張りは空回り、ついにはパワハラ上司の上野(小澤征悦)から「ここのメンバー全員誰もお前のこと仲間だとは思ってないから!」というキツイ一言を浴びせられてしまう。しかし、上野の攻撃はコレだけでは収まらず、「お前が何をしようが誰も見てないし、どうでもいいんだよ!」と、もはやパワハラで訴えられてもおかしくない暴言まで繰り出してくる始末。心を抉る第一話よりさらに第二話は鋭さが増し、抉るどころかトドメの一発だ。

 「私が占いをしていることをバラしたら殺す!」と、神田に釘を指していたアタルだが、神田は「殺してもいいよ!」と、目黒を占ってあげるよう懇願する。神田の熱意に負けて目黒を占うことになったアタル。神田を占った時と同様に辛辣なアタルだったが、半泣きの目黒に「今まで通り自分らしさを失わずにいたら、必ず誰か手を差し伸べてくれるって! この世に一人もいないっつーの、誰にも必要とされない人間なんて!」と、愛のあるカツを入れる。勇気を得た目黒は、今までの自分を省み「大人」として成長することを決意する。

 ドラマのお約束で、目黒はドン底のままでは終わらないだろうし、アタルは彼に「救い」を与えるだろうとわかってはいるのだが、ラストは爽快感でいっぱいになる。アタルの愛あるカツはまるで自分へ贈られた言葉のように胸がじわりと熱くなるし、一歩を踏み出す目黒の姿にはエールを送りたくなってしまう。

バラバラのチームには変化は訪れるのか?

 二話までを振り返ると、ドライに振舞ってはいるが実際のアタルは熱い人間だということが見えてくる。見えすぎるがゆえ、人間の負の部分をたくさん知ってきた彼女の人生は決して楽なものではなかっただろう。それでも、人間の良い部分を見落とさず人々に「救い」を与えるアタルはカッコいい。

 悩める同僚たちが救われるまでの過程が辛すぎる部分は否めないが、ドン底から這い上がる姿には感動もひとしおである。

 チームの皆がそれぞれに抱える問題もさることながら、アタルの過去もなかなか手強そう。第二話で母親らしき人物について質問された時、「それについては言いたくありません」と詮索を断固拒否している。どうやら根深い確執がありそうだ。

 とはいえ、アタルの過去が明らかになるのはまだ少し先になりそう。第三話では、上野に酷い扱いを受けてヤル気をなくしている品川(志尊淳)に焦点が当てられる。他にも、何か依頼されるたびに「それ私ですか?」と凄む田端(野波真帆)や、優しいが優柔不断な課長の大崎(板谷由夏)、暴君の上野や、出世にしか興味の無い部長・代々木(及川光博)でさえ何かを抱えていそうだ。バラバラのチームが、アタルの占いによって、どのような変化を遂げていくのか、非常に気になるところだ。

希望と勇気がもらえるドラマ

 「こういう人いる!」と思わず納得させられる登場人物たち。身につまされる「仕事の悩み」。遊川が紡ぐ物語は厳しい現実を突きつけてくる。一部の視聴者からは「観ていて辛くなる」「ダメな登場人物たちにイライラさせられる」と否定的な意見も出ており、かくいう私も、登場人物たちが迎える「試練」の数々に対し「可哀相で見ていられない」と憂鬱に感じてしまったことは事実である。しかし、苦しみから這い上がろうと奮起して強さを見せるキャラクターたちの頑張りに、それまでのモヤモヤが一掃されてしまうのだ。 

 アタルの占いは決して優しいものではないし、「もう少し柔らかく言ってあげて……」と思わなくもないが、彼女には温かさと愛がある。人間の強さと可能性を信じているのだ。現実にはアタルのような占い師は滅多に存在しないだろうし、ましてやカツを入れてくれるなんて神対応はあり得ないだろうが、職場にアタルのような社員がいたら……なんて夢みたいなことを考えてしまう。

 『ハケン占い師アタル』は悩める人々へカツを入れ、明日への一歩を踏み出すための勇気をくれる応援ドラマ。明日の出社がどうしようもなく憂鬱な人は、ぜひ視聴してみてほしい。ラストは「なんとか頑張ってみよう」と勇気をもらえるはずだ。

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