その一歩として、強欲な質屋の老女がため込んだ財産を世のために使おうと計画したラスコリニコフは彼女を斧で殺し金を盗みますが、老女の異母妹で彼女に虐げられていたリザヴェータ(南沢奈央)の命も予定外に奪ってしまいます。罪の意識から幻覚にさいなまれる彼を、何も知らない友人や家族は案じますが、ラスコリニコフはその家族が送ってくれたなけなしのお金を、小さな子どもを抱え酒浸りだった夫の葬儀代にも事欠くカテリーナ(麻実れい)にすべて渡してしまいます。
ラスコリニコフはカテリーナの義理の娘で、家族を養うために娼婦として働くソーニャと出会い、彼女の自己犠牲の精神に触れるうちに考え方が変わっていきます。しかし、老女殺しの犯人を追う国家捜査官ポルフィーリ(勝村政信)はラスコリニコフを疑い、彼を追い詰めていきます。
無精髭の三浦春馬、突出した輝き
三浦春馬が演じるのはラスコリニコフ役。映像作品での活躍の印象が強いですが、本作の演出家であるブリーンの、日本での初めての演出作であるテネシー・ウィリアムズ作「地獄のオルフェウス」(2015年)にも、大竹しのぶ演じる主人公が恋して破滅する青年役で出演しており、演出家だけでなくコアな舞台ファンからも信頼される優れた舞台俳優でもあります。
ラスコリニコフは頭脳明晰であるがゆえに、自分こそが物事の真実に迫ることができる選ばれた存在であると思い込み、しかし罪の意識から精神の均衡を失っていきます。薄汚れた衣裳に無精ひげの姿は、狂気だけが目立ってしまいそうなものですが、そんな姿でも、三浦はひたすらキレイでした。
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原作の「罪と罰」は1865年にモスクワで起きた金目当ての連続老女殺害事件やサンクトペテルブルクで起きた高利貸し殺人事件がモデルになっていますが、ラスコリニコフのなかで、気高い理想と弱い存在である女性の惨殺が両立していることに納得できるのは、そのキレイさゆえ。老女殺害以降、終盤まで三浦の手は血まみれのままですが、観客にとって理解不能な狂気ではなく、青年の苦悩や正義の報われなさへの憤りが印象的でした。