
Thinkstock/Photo by Milkos
「またも厚生労働省か」
かつて第一次安倍政権のもとで「消えた年金」問題を起こした厚生労働省。この問題は、安倍政権が倒れる最大の要因になりました。第二次安倍政権となった後も、「働き方改革」の審議で残業時間などに関して、非常識なデータを出して議論を混乱させ、あわや廃案にもなりかねない状況を作ったのも厚生労働省。そして今回は、同省の「毎月勤労統計」が政権を揺るがしています。
ことの発端は昨年春以降、私を含む何人かのエコノミストが「毎月勤労統計」の数字がおかしいと指摘するようになったことです。私が気づいたのは、この統計の中の1項目にあたる「所定内給与」の伸びが昨年1月から突然高くなったことです。時間外やボーナスなどは月によって変動が大きく出ますが、「所定内給与」はいわば基本給部分で、年度替わりや春闘賃上げによって動く以外はあまり動かないものです。
ところが、前年の12月までは前年比0.3%前後の低い伸びが続いていたこの「所定内給与」が突然、1月に前年比1%前後に高まり、その後も高い伸びが続きました。ベースアップの時期でもないのに不自然だったため、調査サンプルが1月から大きく変わったのではないか、と指摘しました。その後同調者が増え、日銀や内閣府も疑問を持ったようでした。
この声に押されて、厚生労働省は1月からサンプルが変わったことを認め、毎月の調査結果とは別に、「同一事業所ベース」の伸びも後ろのほうに併記するようになりました。この同一事業所による数字は確かに公表値よりも伸びが低く、前年のデータとあまり乖離のないものとなっていました。
この「毎月勤労統計」は、内閣府が集計するGDP(国内総生産)の所得面のデータの基礎データとなる、いわば基幹統計です。これらをベースに「雇用者報酬」など家計部門の所得を集計しているのですが、もとのデータがサンプル替えのために伸びが高まった事実を踏まえ、内閣府はGDP統計で雇用者報酬の下方修正を余儀なくされました。日銀や内閣府は厚生労働省に原データの提出を求め、自分で計算しなおすという始末でした。