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本当に日本は「狭」く、坂本龍馬は「英雄」で、キャッシュレス比率は「低い」のか? 『FACTFULNESS』に学ぶ事実を読み解く習慣のつけ方

【この記事のキーワード】

『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP社)

坂本龍馬は「被害者」か「凶悪犯」か?

 我々が「景気」を実感できるルートは2つある。

 まず、肌感覚。もうひとつは報道されるデータだ。このデータで「不正統計」の問題が噴出している。厚生労働省が「毎月勤労統計」を不適切な方法で調査していたとされる「偽装統計」が明らかになったからだ。安倍首相が推進してきたアベノミクスは、こういったデータに基づいて、評価されるから大問題だ。一国の長の通信簿の評価を決するデータそのものが間違っていたとすれば、評価軸を揺るがしかねない事態なのである。

 タイムリーなことに、『FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』(日経BP社)が世界で100万部の大ベストセラーになっている。日本にも上陸し、ビジネスパーソンを中心に、今や話題の書のひとつだ。

 「ファクトフルネス」とは、データや事実に基づいて、事象を読み解く習慣のことだ。この書が痛快な点は、賢い人ほど「思い込み」に陥りがちで、事実と異なる解釈を持ってしまうというギャップにある。そのために、正しいデータを読む必要性を論じている。

 同書では、教育、貧困、環境、エネルギー、人口など幅広い分野から10の思い込みと正しいファクト(事実)とのギャップを浮き彫りにしているので、ぜひご一読いただきたい。

 さて本記事では、筆者が考える「思い込み」と「ギャップ」について、3つの事例を紹介してみたい。

【事例1:坂本龍馬】

 まずは、坂本龍馬。薩長同盟、大政奉還に影響を及ぼした幕末の英雄として全国民に親しまれている。

 俳優の武田鉄矢氏や経営者の孫正義氏を始め、坂本龍馬の熱烈なファンは老若男女問わず多い。ここ10年を見ても、小栗旬氏(2018年「西郷どん」)、福山雅治氏(2010年「龍馬伝」)と国内きってのイケメン人気俳優が坂本龍馬を演じている。その最期が、何者かに暗殺されてしまうという結末であることも広く知られている。

 この史実から、我々は次の認識をしているのではないだろうか。

・          坂本龍馬→被害者

・          暗殺者→犯人

 ところが、坂本龍馬が「被害者」ではなく、逆に「犯人」、それも「凶悪犯人」であったと聞けば、相当な違和感を感じはしないだろうか?

そこで『古舘トーキングヒストリー 〜幕末最大の謎 坂本龍馬暗殺、完全実況』(2019年1月5日放送、テレビ朝日系)に出演した歴史学者・磯田道史氏の「坂本龍馬は、当時で言えば凶悪殺人犯だ」という興味深いコメントをご紹介したい。

 史実を紐解いてみよう。坂本龍馬は、二度襲撃されている。一度目は慶応2年1月23日に寺田屋襲撃により、伏見奉行の捕り方2名を射殺してしまう。奉行所の捕り方は、今でいうと公務員、つまり警察官に近い。現代で言えば、警察官殺害は重罪だ。

 二度目に近江屋で襲撃された際に、坂本龍馬は命を落としてしまう。歴史上の英雄という我々の思い込みがあれば、「被害者」として映る。

 ところが、もう一方で公務員殺害の指名手配犯という一面もあるのだ。

 先の歴史学者・磯田道史氏は、「暗殺者を犯人と言うより、当時では坂本龍馬を犯人と言わなければならないかもしれない」とコメントしている。

 「被害者」と「凶悪殺人犯」では、180度違う。天と地の差だ。

 坂本龍馬が公務員を殺害したことが、紛れもない「事実」ならば、なぜこうも天と地ほど違う印象が与えられてしまったのだろうか。

 ここにFact(事実)をめぐる思い込みが発生している。

 それは、文豪である司馬遼太郎の『竜馬がゆく』に端を発する書籍や映画の影響だろう。「善」の立場で愛嬌たっぷりに描かれる坂本龍馬像を、「歴史上の人物(=事実)」として刷り込まれてしまっている。

 このように、「思い込み」と「事実」には乖離が発生するものなのである。

「せまい日本」にダマされてはいけない

【事例2:日本のサイズ】

 我々が暮らす日本。その国土のサイズは世界的に見て、「小さい」だろうか、それとも「大きい」だろうか。

 日本は島国で、世界的にも「小さい」という認識が一般的ではないだろうか。

 しかし、現実は違う。意外と日本の国土はデカい。お隣の韓国の4倍近い広さである。そして、それはあまり知られていない。

 正確なデータを見ていこう。

 世界には196の国があるが、日本の国土は38万平方kmで世界61位。大国ではなくとも小国とは言い難い。

 さらに、四方を海で囲まれているため、領海および排他的経済水域の面積は国土の約12倍に相当する約447万平方kmもある。こちらは何と世界第6位だ。立派な超大国といえよう。

(出典:平成21年12月総合海洋政策本部発表資料)

 住居にたとえていうなら、建物面積では、世界のトップ1/3以内の大きさでまずまず広い。庭まで含めたら、何と世界6位の広さである、ということだ。

 「小さい」という思い込みと、意外に「大きい」事実とのギャップはなぜ生じたのだろうか。

 私たちは幼い頃から、「小さい島国」という刷り込みがなされていると考えられる。たとえば「せまい日本そんなに急いでどこへ行く」。これは、かつての全国交通安全スローガンとなった名キャッチコピーだ。日本って狭い国、小さい国なんだ、と全国民に刷り込ませるほど、このキャッチコピーの威力は絶大だった。ところが、こういうスローガンにダマされてはいけない。正確なデータと比較すると、思い込みにより事実を見失ってしまう。

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