キャッシュレスは進んでいるのか?
【事例3:キャッシュレス】
政府は、2019年10月の消費税増税前にキャッシュレスを促進させようと躍起になっている。
キャッシュレスとは、カード払いやスマホによる支払いなど、現金以外の決済手段を総称した呼び方だ。このキャッシュレス、日本は後進国として位置づけられている。その根拠は、韓国のキャッシュレス比率が89%なのに対して、日本は約2割でしかないというデータだ。
「日本のキャッシュレスは2割程度」。このデータは長い間、新聞を通じて報道され、我々に「通説」として刷り込まれていた。ところが、ここに来て、異なるデータが出現し始める。金融庁が2018年秋に公表した独自調査では、日本のキャッシュレス比率を54%と算出している。
キャッシュレス比率は、「2割」なのか「5割」なのか。「日経ビジネス」(日経BP社) 2019年1月21日号は、この数字の差を、調査手法の違いによるものであると分析している。前者は、経済産業省が家計の最終消費支出を占めるキャッシュレス決済の比率を計算したものである。対して、後者は金融庁が個人の給与受取口座からの出金状況を分析したものだ。
本事例において、どちらが「本当」のデータかは、筆者にはわからない。どちらとも肌感覚に近い感じがするからだ。「5割超」は筆者にとって納得の数字だ。なぜなら東京で仕事をしている筆者の周囲は、現金以外のいわゆるキャッシュレス決済を多用する友人も多く、利用加盟店も多い。筆者自身も利用加盟店がOKならば、ほぼ100%キャッシュレスだ。
一方で、「2割」の数字も実感できる。たとえば、国際空港も有する福岡(博多)に出張することが多いが、利用するタクシーのほとんどが未だ現金しか受け付けない。
カードを差し出すたびに運転手から嫌な顔をされて「あー、うちは現金だけなんすよ」と言われると、キャッシュレス比率の低さを実感せずにはいられない。外国人にはさぞ不便だろうにと思うが、福岡のような地方の大都市でさえこんな状況であると、キャッシュレス比率の低さを実感する。
国を挙げての対策となるデータが「2割」であるなら、「まだまだ」という意味でアクセルを踏まなければならない。一方「5割超」であれば、「まずまず」という意味で、最優先対策から順位を下げて考える対象にもなる。
正しいデータを見抜く3つのコツ+1
筆者は、データに基づいてマーケティング分析をしたり、企業へアドバイスしたりする立場にある。ここで筆者なりに、正しいデータを読み取る3つのコツを紹介したい。
[その1:少より多]
一般的に、量の少ないデータより、多いデータのほうが信憑性が高い。たとえば、1人の証言より、複数の証言の方が確実だ。
[その2:広より狭]
対象となるデータを絞り込むと実態が浮き彫りになる。たとえば、先のキャッシュレスも「都会でのキャッシュレス比率」と「地方都市のキャッシュレス比率」は異なる数字が出るはずだ。もしくは、対象とする年代によっても異なる。対象範囲を狭めれば、事実データがぐっと近づいてくる。
[その3:民より学]
データは民間より、学術的データの方が営利が絡みにくく、研究に特化しているので、信頼されやすい。
最後の+1(プラスワン)は、筆者の個人見解であるが、「自分の直感」だ。
「思い込み」の元凶でもある「自分の直感」だが、何度か痛い思いをした自分の経験は潜在意識に入り込み、土壇場で脳内に警鐘を鳴らす。
ファクトフルネスを磨くと共に、自己直感を磨くことも怠ってはいけない。
1 2