
『Little BRITAIN/リトル・ブリテン セカンド・シリーズ Vol.1』(ジェネオン エンタテインメント)
今回の連載では、女性を「不完全女性」と認定するとはどういうことか、について考えていきたいと思います。「不完全女性」って何じゃそりゃ……と思われるかもしれませんが、特定の女性をなんとなく女性ではないようなものとして扱うというのは、歴史的によく起こっていたことです。今日は私が昔から抱えている、不完全女性として認定されることへの恐怖について書きたいと思います。
『リトル・ブリテン』のエミリー・ハワード
『リトル・ブリテン』というコメディシリーズが、イギリスのBBCで2003年から2005年まで放送されていました。これはマット・ルーカスとデイヴィッド・ウォリアムズという2人のコメディアンがいろんなキャラクターを演じるお笑い番組です。今だと全然笑えないのでは……と思うような内容もあり、クリエイターのマットもちょっと失敗したところがあると回想していますが、当時はとても人気がありました。
私のお気に入りキャラのひとりが、デイヴィッド演じるエミリー・ハワードです。エミリーはこんな感じ(写真の右側、左側は友達のフロレンス)で、「ダメダメなトランスヴェスタイト (異性装者)」と呼ばれています。下にチャリティ企画のコミックリリーフで作られた、大スターのロビー・ウィリアムズがゲスト出演している動画があるので、字幕がないのですがよかったら見てみて下さい。
エミリーはヴィクトリア朝ふうのふわっふわした服が大好きで、いつも貴婦人らしくしようとしています。「私はレディよ!」が口癖ですが、見た目のせいで誰もエミリーを女性として扱いません。毎回毎回、プールとか病院とかでトラブルが起きます。できるだけレディらしく振る舞おうとしているのに、時々変なタイミングで男っぽい声を出したり、伝統的にはものすごく男らしいとされていること(車を直すとか、スポーツとか)を難なくやってのけてしまったりして、皆から男扱いされます。
エミリーはトランスフォビア的なキャラクターだとものすごく批判されました。今見ると、たしかにそうだと思えるところがあります。エミリーは女の服を着たダメ男みたいに描かれており、差別的だし悪趣味です。エミリーを嫌うトランスジェンダーの視聴者がいるのは当然だと思います。
でも、私はエミリーが大好きでした。というのも、ひらっひらの服が大好きなのに全然レディとして扱ってもらえないエミリーは、まるっきり私だと思ったからです。
私は子供の頃、顔は不細工だし、太っててドンくさいし、悪声で、口を開くと辛辣なことばかり言っているので、全然可愛くありませんでした。大人になってからも心の底でいつも怖かったのが、自分はまともな女性なのだろうか……ということです。私はハイヒールも履かないし化粧もしないし、することなすこと素っ頓狂で、女性の理想像からはかけ離れています。世間的に、立派な女性でいるハードルはものすごく高いものです。誰もがうらやむような美人でも、どこかで容姿の欠点を気にしているし、みんなから好かれている女性でも、性格や人間関係のことで悩みを持っています。私から見ると完璧に見える女の子ですらいろいろ困っているのを見ると、皆私のことなんかまともな大人の女と思ってないのではないだろうか、いつの日か誰かが私を不完全女性認定するんじゃないか……というような不安が漠然とありました。
そこで私に一番近いと思えたのがエミリー・ハワードです。エミリーと私の着るものの趣味はたいして違わなくて、ふわふわした服が大好きです。エミリーは女の子女の子した服を着て、やたら高い声で話し、自分はレディだと自己主張しているのに、周りが全然女性と認めてくれないのです。これは私が抱えている悪夢そのものでした。エミリーは私だし、全ての女性がエミリーだと思いました(年をとると、全ての女性がこのレベルの不安を抱えているというわけじゃなさそうだ、ということもわかりましたが)。
異性装者でもなければトランスジェンダーでもない私がエミリーにものすごく共感しているというのは、トランスジェンダーの視聴者にとっては不愉快で傲慢なことなのかもしれないと思います。自分の容姿に悩みを抱えている女性がみんなエミリーみたいな状況に陥っているわけでもないでしょう。でも、私は今でも自分はエミリー・ハワードみたいだし、いつ誰が自分を不完全女性認定するかわかったものじゃないと思っています。
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