アリアナ・グランデのタトゥ「七輪」は文化の盗用か?

文=堂本かおる
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『7 Rings』〜日本文化より濃厚なブラック・フレイバー

 アリアナの『7 Rings』のビデオはタイトルに『七つの指輪』と日本語表示がある。ビデオの中には、品川ナンバーの車が登場し、アリアナは箸で巻き寿司を食べている。頭の両サイドにあるお団子ヘアは『ストリート・ファイター』の春麗からのインスピレーションだろうか。

 他にも日本由来の小物が登場するが、驚かされたのは日本文化よりも色濃いヒップホップ「文法」だ。歌詞、ダンス、ポーズ、衣装など、すべてがヒップホップ、つまり黒人文化に基付いている。

 昨年の夏、アリアナは『サタデーナイトライブ』のコメディアン、ピート・デイヴィッドソンと電撃婚約し、3カ月後にいきなり婚約解消した。ピートはコメディアンとして相当の才能を持つが境界性人格障害と診断されており、かつては麻薬依存症でもあった。ポップス界のスーパースターとエキセントリックなコメディアンの恋愛と破綻はゴシップとなり、大きく報じられた。その体験から出来た曲が、元彼に感謝してさっさと次に進もうという『thank u, next』だった。

 続く『7 Rings』の歌詞は、ティファニーで婚約指輪を7つ買い、友情の証として6人の親友に配った実話に基づく。「指輪を買ったけど結婚するわけじゃない」「大金を稼いでるんだから好きなように使うわよ」と、女性の強さをアピールする内容だ。同時に、大枚をはたくライフスタイルを誇張するのは、ヒップホップの伝統的なスタイルでもある。自分は「bitch」で、過去の揉め事は「bad shit」、飲むのは「bubbles(シャンペン)」で、買い物のレシートは「like phone numbers(金額の桁が大きく、まるで電話番号のよう)」……。

 オーストラリア出身の白人女性ラッパー、イギー・アゼリアは、2014年の大ヒット曲『ファンシー』が黒人のモノマネだと激しく批判された。あれから5年。アリアナは日本の文化盗用と批判されこそすれ、もはや黒人文化の盗用とは呼ばれない。ヒップホップはその誕生から40年以上をかけてメインストリームにすっかり定着したのだ。

 とはいえ、日常生活で非黒人があからさまに黒人の立ち居ふる舞いや話し方を真似ると、今も批判される。ブラックフェイスについては論外だ。

日本の文化盗用の範疇とは?

 今後、アメリカにおける日本文化の立ち位置はどう変化していくのだろうか。そして、アメリカと日本での文化盗用に対する解釈の違いはどう変化するのか、もしくはしないのか。

 今回の件に限れば、アリアナは世界的なセレブだけに日本語のタトゥを入れるのであれば正確な日本語を知る人物に相談するべきだった。たまたま「七輪」で済んだが、まかり間違えばとんでもない単語になることもある。筆者は首筋に「女好き」と彫っている若い女性をニューヨークの地下鉄で見掛けたことがある。アリアナにとっての不幸中の幸いは、手のひらは皮膚の新陳代謝が激しく、タトゥはやがて薄れて消えることだろう。

 アリアナのアルバム・ジャケットやビデオでの日本アイテムの使用は許容範囲だと筆者には思える。どこまでがよく、どこから文化の盗用と感じるかは登場する小物単体ではなく、全体のニュアンスの問題と言える。「ありがとう」のトレーナーは『thank u, next』に由来し、日本語としても正しいので問題には感じない。

 いずれにせよアリアナ個人が日本語を学ぶこと自体は、彼女のセレブとしての側面と切り離して考えるべきだ。以前は日本に住んでいた日本人として、かつ今はアメリカに住む日系アメリカ人として、アリアナには日本語の勉強を続けて欲しいと切に願う。
(堂本かおる)

追記:アリアナ・グランデJP公式アカウントと東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の公式アカウントは話し合いを持った上で、アリアナ本人にコンタクトを取ってはどうか。謝罪の必要はないと思うが、日本国内の事情やファンの心情を伝える義務はあるだろう。このままではアリアナと日本の関係だけでなく、2020東京オリンピック・パラリンピックにもネガティヴな影響が残ってしまうだろう。

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