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隙間に気づき、隙間を埋める
その昔、理科の時間に「液体Aと液体Bを足した容積が、単純な足し算よりも減る場合がある」と習ったことを覚えている人も多いだろう。たとえば、水100mlとエタノール100mlを足すと200mlではなく、200mlよりも少なくなるから不思議だ。その理由は、2つの液体の分子の大きさに違いがあり、たとえば「液体Aの分子>>液体Bの分子」の場合、液体Bの分子が液体Aの分子の隙間に潜り込むためだと説明される。誰でもイメージしやすいように、大豆と米粒を混ぜ合わせるたとえで説明されることも多い。
自然界で起こるこの現象は、マクロの世界で見ると驚きだが、ミクロの世界のメカニズムで説明されると納得がいく。実は、このような隙間を上手に埋めるメカニズムは、ビジネスモデルの世界でも急速に普及しつつある。
隙間ビジネスの先駆け - 株式会社ビースタイル -
今、話題になっているビジネスモデルの多くが、実はこの「隙間モデル」だ。たとえば、「空いている隙間時間を使っての配達サービスに参加する」「駐車場を使っていない隙間時間だけ駐車場を時間貸しする」などがそれだ。そうしたビジネスモデルの代表格がAirbnbやウーバーである。
隙間時間を活用することにかけては、日本にもビースタイルというその道の先駆者ともいうべき会社がある。2002年に人材派遣業として創業された同社は、その目の付け所がとてもユニークだ。まだ創業したての頃、三原邦彦社長(現会長)がコンサルティング会社に勤務していた当時の筆者を訪ねてくれたことがある。そのときに聞いたビジネスモデルは実に斬新であった。
そのビジネスモデルはこうだ。当時、人材派遣が普及し始めてはいたものの、今でいうフルタイム的な派遣が中心であった。ビースタイルが目を付けたのは、派遣する時間帯を細かく設定するというものであった。主婦の中にはフルタイムの仕事は無理でも、週に2日とか、1日3時間とか、隙間時間だけ働きたいというニーズがあるのではないかと考えたわけだ。
一方、派遣社員を依頼する会社側も、フルタイムで採用するほどではないが、必要な日時だけ特定のスキルを持った人を派遣してほしいというニーズがあるのではないかと考えた。たとえば、経理業務が忙しい月末だけ、経理業務に明るい人材を派遣として雇いたい、といったニーズだ。このように、働きたい主婦と雇いたい企業側に「隙間時間」のニーズが存在するのではないかと気づいたのである。そこをマッチングさせればよいと。
ただし、このマッチングはそう簡単ではない。何しろ、働きたい側にも、採用側にも、相当な「わがまま」が存在するからだ。そこを結びつけるには高度で安価なITプラットフォームが必要となる。
しかし、当時はITプラットフォームどころか、スマホも普及していなかった(iPhoneが発売されたのは2007年だ)。働きたい時間もまちまち、採用したい時間もまちまち、といったわがままな者同士を結び付けるプラットフォームなど夢物語であったといってよい。
その夢物語を提供しますという人が目の前に現れたのだから驚かないわけにはいかなかった。ビースタイルのビジネスモデルは、「提供者側の隙間時間」と「採用者側の隙間時間」をマッチングするという画期的なサービスであった。そしてそれが達見であったのは、ITの進歩でマッチングサービスがいかに普及したかを見るまでもないだろう。
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