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昨年に引き続いてインフルエンザが猛威を振るっている。厚生労働省は2月1日、全国約5000カ所の医療機関から報告されたインフルエンザ患者数が1施設あたり57.09人になったと発表した。昨年のピークを上回っており、過去最多を更新した。
インフルエンザは感染症なので、何かをきっかけに大流行してしまうのは避けられない部分があるだろう。だが、流行が発生した後に、社会としてそれにどう対応し、被害を最小限に食い止められるのかについては、工夫の余地が大きい。
出社強要や、予防接種をしない人への集団叱責も
インフルエンザの流行は昔からあったが、大流行となった昨年あたりから、職場での対応をめぐって奇妙な話を耳にすることが多くなった。ツイッターなどでは、インフルエンザにかかっても会社を休めず、出社が事実上、強要されるといった事例が報告されている。
1月22日には、出勤途中の会社員が東京メトロ日比谷線中目黒駅のホームから転落して死亡するという事故があったが、死亡した女性はインフルエンザに感染していた。インフルエンザと事故の関連性は明らかではないが、少なくとも罹患した状態で出社しようとしていたのは間違いない。
インフルエンザにかかった状態で出勤しても能率が上がらないのは明白であり、むしろ病状の回復を遅らせてしまうだろう。さらにいえば、職場で他の社員にも感染が拡大する可能性が高いことを考えると、罹患した社員を出社させる合理的な理由は存在しない。だが一部の職場では、無理して出社することを推奨する雰囲気すらあるようだ。
これとは逆に、インフルエンザに罹患すると体調管理がなっていないと叱責されたり、予防接種をしなかった人を批判したりといったケースも目立つようになっている。
インフルエンザの予防接種は確かに一定の効果があるが、どちらかという重症化を防ぐためのものであり、予防接種によって感染そのものを絶対的に防げるわけではない。
不正統計問題で揺れる厚生労働省の根元匠大臣は、先日インフルエンザでダウンしたが、根元氏は毎年予防接種を受けており、今シーズンもしっかり接種を受けていたという。この例からわかるように、予防接種を絶対視するのは少々短絡的であり、接種しなかった人を集団で批判することに至っては、それこそ病的としか言いようがない。
日本では重視されていない手の消毒
当然、諸外国にもインフルエンザは存在するが、少なくとも先進各国では日本のような奇妙な問題を耳にすることはない。その理由は、企業の仕事の進め方や社会環境が日本とは根本的に違っているからである。
海外の企業でもインフルエンザ対策を行っているところはあるが、それは予防接種ではなく、手の消毒というもっと簡便で確実な方法が多い(予防接種は老人など免疫力が弱い人への対策というニュアンスが強い)。
職場に消毒用のアルコールを置き、社員は時々それで手を拭くことで感染の拡大を防止している。一部の企業では、書類の受け渡しなどを控えるという措置も行っているようだ。
インフルエンザの感染ルートはさまざまだが、もっとも多いと考えられているのが、手に付着したウイルスを口や鼻、目から取り込んでしまうケースである。
人はわずかな時間でも、無意識のうちに、何度も手を口や鼻にあてている。エレベータのボタンやコピー機などは不特定多数の人が指で触れるので、ウイルスや雑菌の温床となっている。ここに触れた手をそのままにして口や鼻などにあてれば、当然そこから大量のウイルスが体内に侵入する。
米国のニュース番組などを見ると、1分間に人が何回、手を口や鼻にあてるのかを紹介し、こまめな消毒の効果が大きいことを説明している。
こうした現実を考えると、日本の社会環境はかなり劣悪といってよい。スシ詰めの満員電車はウイルスの巣窟であり、とりわけ、つり革などの汚染度はすさまじいレベルだろう。いくら気をつけていても、これに触れた手で目や鼻をこすってしまえばおしまいである。
先進国の中で職場にFAXが大量に残っているのは日本だけという現実が示しているように、職場のペーパーレス化も欧米ほどには進んでいない。書類を媒介にした感染も少なくないだろう。仕事が個人ベースになっていないので、常に多くの社員が顔を合わせて仕事をしていることも感染リスクを拡大している可能性が高い。
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