建前と本音を使い分けるーー「LGBT運動」の可能性/清水晶子×鈴木みのり【年末クィア放談・後編】

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お行儀のよいプライドパレードの今後

谷山:東京でパレードが始まったのが20数年前ですが、3回目ぐらいには「レズのくせに」発言がありました。レズビアンとゲイの置かれているジェンダー差とかも、(シスジェンダー男性である)ゲイは考えないですからね。女性の平均年収が男性より100万円前後低い状況が続いているとか、3日に1人ずつ女性が夫からのDVで殺されているとか、そういう数字を見ないしリアリティもない中で運動をやってる。昔は、パレードは夏場だったんですね。お盆とか(現在は4月末)。200人ぐらいで死にそうになりながら歩いてっていう。

清水:死にそうにって本当にわりと文字通りだったりする。熱中症にならないことを1番の目的として歩きましたね(笑)。

谷山:水分ちゃんと取ってねって。中高年になるとちょっと体力的に無理かもっていうような時期にやっていて。

清水:知り合いとかで運ばれた人もいました。毎年必ずちょっとは具合悪くなる人が。

鈴木:韓国・ソウルでの「ソウル・クイア・カルチャー・フェスティバル」(SQCF)に7月に行ったんですが、パレードの日の日差しがまさにそういう感じでした。

清水:今プライドパレードがわりと微妙に難しいターニングポイントなのかなと思います。東京ってかなり大都市じゃないですか? こういう大都市だとパレード自体が2つあることも最近は多いですよね。コマーシャルなツーリスト向けのパレードっていうのが1つあって、そこでもものすごく強大なお金が動いているのだけれども、まさにそれ故に、個別の当事者が疎外感を覚えるというか、自分のためのパレードなのかどうかわからなくなったりもする。それで、そういう商業的な華やかなパレードと別に、例えば貧困層だったり病気があったり、あるいは最近多いのは移民とか宗教的、人種的なマイノリティとか、そういう人たちが作っていくパレードもあったりする。でもそういう感じでパレードを組んでいくのは、東京はサイズ的にちょっとまだ難しい感じがありますよね。

鈴木:サイズって都市のサイズとして?

谷山:道路交通法がネックになっているんだと思う。来年(2019年)はフロートの数を制限せざるを得ないっていうか、エントリーしても落ちちゃうところが出るぐらいにギリギリだとも聞いています。

清水:わたしやっぱり日本の、というか東京のパレードで特にこの数年ものすごく目につくようになってるなと思うのが、とにかく迷惑をかけないみたいな。

鈴木:「入らないでください! 沿道から!」

清水:迷惑をかけることを目的としなくてもそれはもちろん構わないと思うけれども、なんでこんなにすみずみまで統制しようとするのかな、と。

鈴木:自主規制みたいな感じですよね。

清水:そうそう、忖度みたいな。「こんなことやったら警察が」みたいなのがものすごく多いですよね。

鈴木:SQCFでパレードも見たんですけど、ソウル市内の中心で二車線潰して使ってずらーっとパレードが歩いてる時、沿道を警察が整列して歩いてたんですね。その警察は何をしてるかというとヘイトの人たちを防ぐためで、パレード参加者は出入り自由でした。東京だと、「事前に登録した人しか歩かないでください」「入らないでください」一辺倒じゃないですか? 韓国語がわからないから、パレードやフェスティバル全体をどう評価したらいいかわからないし、簡単に比較はできないと思うんですけど。

谷山:多分日本でやるとすると、浅草サンバカーニバル的な感じぐらいに、街じゅうが賛成をして道路に面してるところが全部OKですっていうのをしないと法的に多分難しいというところがネックになってくるのかな。とはいえボランティアの若い子たちが、やわらかに言うのではなくて「隊列を乱さないでください!」「やめてください!」って、自分に権力が付与されたものとして制限するって行為をしている。僕もここ数年、ボランティアスタッフの友達が「それを守らないと次ができなくなって困るんですよ」って言ってるのを聞くんですね。語弊があるかもしれないけれども、他の市民運動や活動を知ってる人であれば、多分そこは現場裁量でちょっとずつどかすとか、(途中入列を防ぐための)鉄柵を後ろに下げていってるとか、そういうことをよくやるね。

清水:実際に、杉田水脈発言のときの自民党本部前デモの時も、最初にあった鉄柵が、気がついたらどっか消えてたりしましたもんね。

谷山:あれは現場の力だったりするんだけれども、LGBTのコミュニティが現場を教育していないっていう。教育というとすごく上からかもしれないんだけれども。

清水:伝わっていない。

コントロールが効かなくなってきたキャッチーな運動

鈴木:「LGBTを可視化しよう」っていう方向で、キャッチーな動きも強まってると思います。2015年から、2020年までに1万人の性的マイノリティを撮影しようという「OUT IN JAPAN」という企画も始まり、昨年はレスリー・キーさんが丸井の企業ブースで撮影もありました。

谷山:やっぱりメディアのほうがキャッチーなものをどんどんバズるようにやるっていう手法、マーケット先行な部分はここ数年規模がものすごく大きくなってきているからびっくりしますね。

鈴木:TRPは協賛の営利団体も増えてますよね。

谷山:だんだんアンコントロール感がすごい大きくなってくるのを感じています。杉山文野くんの毎日新聞での「マーケットになって、はじめて人権が得られるという側面はある」という発言ですが、あれも本人は言ってないそうなんですよ。

清水:言ってないみたいですね。そもそもLGBTやクィアって、アメリカの文脈だと特にそうですけど、マーケットを利用しながら政治をやってきた側面もあって、それがうまく行った時に明らかに政治的に力をつけてきたわけです。だからその方向を戦略として探ってきたというところは一面では確実にある。

谷山:(80年代の)エイズ危機の文脈でもそうですよね。最初は政府に薬を認可しろ、殺すなって言っていたんだけれども、今やアメリカでは大きなお金、製薬会社とLGBTコミュニティが結びついてっていう。

清水:わりとそのへん難しいですよね。ファッションだったりとかポップカルチャーとか、コミュニティの中だけではなくて、ちょっとかっこいい女の人だったりとか楽しいキャンプなパフォーマーだったりが、もう少し一般の市場で消費されながらやってきたところはあると思うんです。これは日本だけではないです。もちろんそれに対して常に批判もあるんですけど、批判も含めそういうものを全部合わせた形で運動は動いてきてるっていうところがある。

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