乙武洋匡サイボーグ化計画に見るAIとロボット技術の可能性

社会 2019.02.25 07:05

 『五体不満足』の著書で有名な作家の乙武洋匡氏が、2018年11月13日にInstagramに投稿した写真が注目を浴びた。

 なんと、義足をつけて立っているのだ。投稿には「乙武、再始動」とコメントされ、ハッシュタグには「衝撃発表、義足プロジェクト、サイボーグ化計画、人生初、仁王立ち、歩いてみせる」などの言葉が並べられた。

 彼が直立した場所は豊洲Brilliaランニングスタジアム。写真は同日から行われた「2020年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」のシンポジウム「JST CREST x Diversity」で披露された。

 乙武氏はこの義足で立っただけでなく、なんと7メートル弱も歩行できたという。これがいかに画期的なテクノロジーか。

乙武氏を義足で歩かせるプロジェクト

 乙武氏が装着している義足には、最新鋭の技術が搭載されている。メディアアーティストや実業家、大学の准教授など幅広い分野で活躍する落合陽一氏率いる一般社団法人xDiversity(クロス・ダイバーシティ)が進めており、ソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙氏が開発してきたロボット技術を用いている。

 つまり、AIによって制御されたモーター付きの義足だ。乙武氏を最新鋭の義足によって歩かせようというプロジェクト『乙武洋匡の義足プロジェクトを応援したい』は、活動資金を集めるためにクラウドファンディングを行っている。

 目標額は10,000,000円だったが、本稿執筆時(2019年2月18日)には既に14,879,500円(148.8%)を集めていた。

 開発を進めているxDiversityは、AI技術の個人最適化技術と空間視聴触覚技術の統合を通して、人機一体による身体的・能力的困難の超克を目指している。

(動画はこちら)

義足で歩行することの想像を絶する困難さ

 しかし、乙武氏の義足利用はイバラの道だ。本人もTwitterで義足の練習にげんなりしていることを吐露しているほどだ。乙武氏が装着している義足は、約10キロの重量がある。健常者の脚と同じくらいの重量だが、生まれながらに脚がなかった乙武氏にとっては、かなりの重量に感じるだろう。

 そしてなにより、上半身が義足の上に乗った状態は、乙武氏にとって彼の日常よりも体がかなり高い位置に持ち上がることを意味する。もし倒れた場合、乙武氏には体を支える腕がないのだ。このことは、想像を絶する恐怖心との戦いになるはずだ。

 また、歩く際には膝の屈伸が重要な働きをするため、この義足の膝には曲げ伸ばしができるようにモーターが付いている。しかし、だからといって健常者のように自在に操ることは困難だ。

 なにしろ乙武氏には膝を曲げ伸ばしした経験がないし、脚で歩行した経験もない。これが事故などで後天的に脚を失った人の場合であれば、長年歩いてきた感覚があるため、義足を使うにしてもイメージがつかみやすいだろう。乙武氏の場合、経験したことのない動きをロボット技術やAIによる制御でどこまで補えるようになるのかが課題になる。

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地蔵重樹

2019.2.25 07:05

フリーライター。主に起業家が著者となる本のブックライティングやWebライティングを行う。経済、ビジネス、宗教、歴史、AIに興味あり。しげぞうのペンネームで『駅猫Diary』他の著書も有り。

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