政治・社会

多様性の志向は表現の幅を広げる。日本のゲーム業界が縛られている古い規範/今井晋さんインタビュー【後編】

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ジェンダー化されている日本のゲーム

――前編では、日本のゲーム業界は基本的に「多様性」を意識していないというお話がありました。日本で変化の兆しはないんでしょうか?

今井:基本的にないと思います。日本のゲーム業界は2016年くらいまで、冬の時代だったんですよ。世界で戦えるコンテンツがほとんどなかったんです。

スマートフォンのゲームに目を向けてみるとわかりますが、日本のゲームってめちゃくちゃジェンダー化されているんですね。「男の子用のゲーム」「女の子用のゲーム」にわけられている。男性向けゲームの広告には露出の高い女の子が使われているし、女性向けゲームの広告にはBLみたいなものが多いですよね。

――有名なタイトルだと「荒野行動」や「Identity V(第五人格)」は、いろいろな性別の人が遊んでいるイメージがあります。ふたつとも開発しているのは日本ではなく中国ですが。

今井:もちろんクロスオーバーしてプレイしている人はいます。でもいま挙げられたゲームも、男性向けという側面が強いですよね。おそらく3、4割は女性プレイヤーだと思われる「Fate/Grand Order」も、ヘテロ男性向けの世界観だということは間違いないと思います。

基本的に作品の規模が小さくなればなるほど、ジェンダーのセグメンテーションが強くなる減少があるんですね。男性向け、女性向けにしたほうが、小さく儲けられるからですね。どちらにも売るためには、どちらに対しても魅力的でないといけない。それが出来ているゲームは、日本だと……ここ1年で売れたものであれば、「モンスターハンター」は、男性と女性が比較的等価な立場で描かれてはいますね。

繰り返し作られる陳腐な作品

――日本が欧米のゲーム業界と違う流れの中にいるのはなぜでしょう?

今井:前編で話した内容と重なりますが、まずエンターテイメント産業の構造が違うんだと思います。アメリカの映画を見ていると、映画業界の人たちはリベラルな意識が強くて、自分たちの理想の社会を描くためにアクティビストとして映画を作っているところはかなりあります。ゲーム業界の人たちもそこに相通ずるメンタリティがある。映画業界の人たちとも交流していますし。

日本の場合、ゲームだけでなく、アニメや漫画、映画などのエンターテイメント産業自体、ジェンダーで棲み分けされている文化が根強い。漫画の場合、比較的コンテンツ量も多いので、ジェンダーの問題を描く作品も増えていますが、「少女漫画」「少年漫画」という棲み分けはいまだにあります。アニメの場合は極端ですよね。そういう業界とゲーム業界は近いので、どうしても影響されている。当然、マーケティングの側面で考えても、男性プレイヤーを喜ばせるようなキャラクターという発想になるわけです。

僕がこんなことを言うのはクリエイターの人たちに悪いと思うのですが、クリエイターも無意識なんだと思います。自分たちがやっていることは普通だと思っている。女の子を描くなら胸を強調させたり、はだけさせたり、セクシーだったりするのが当たり前。僕は、見た目はある程度耐えられる方なんですけど……。

――性別役割分業的なものになるとキツい?

今井:そうですね。分業的なものじゃなくても、ジェンダーで分けられた会話やプロット。日本のゲームってキャラクター同士の会話が非常に多いんです。そのキャラクターがあまりに古い規範に縛られている。アニメでもあるじゃないですか、「料理の下手な女の子」とかありがちなキャラクター。こういう表象を繰り返すのは、端的にシナリオライターの怠慢だと思います。こういうものが大量生産されていることは、耐えられないくらいくだらないと感じています。ジェンダーの視点を抜きにしても、陳腐というべきものも多いんですよ。

――ただただ、同じものが繰り返し繰り返し作られている。

今井:そうそう。「またおっちょこちょいキャラか」「またツンデレがでてきたよ」みたいな。

グローバルで戦っていくには大いに問題だと思いますよ。業界として良いものを作るという意味でも、もっと多くの要素を取り入れる必要があるでしょう。最終的に世界で売れるかどうかは、結果次第ですけど、いずれにせよ新しい表現をする努力がちょっと足りないなと思います。

「ポリティカル・コレクトネス」をやたら嫌がる人って、逆説的ですが「多様性が奪われた」という感覚があるんです。それは単に自分たちが好きなコンテンツがいかに狭いかを意識していないだけで、本来、多様性を志向するということは表現の幅を広げるということなんです。「ポリティカル・コレクトネス」がやり玉にあげるダメな性的表現というのももちろんあるんだけど、多様性という価値観にとっては性的表現そのものがダメというわけじゃない。コンテンツがもっと多様であってほしいんです。

キャラクターメイキングという意味では、日本人は卓越していると思いますし、海外のゲームも日本に影響を受けているものはたくさんあるんです。それこそ多様性を意識している「オーバーウォッチ」だって日本に影響を受けている要素があるんです。その意味では日本のコンテンツ独自の多様性というのは確かにあります。

――日本で、ジェンダーやセクシュアリティの問題を意識した、革新的な作品はないのでしょうか?

今井:クリエイターの個性が強いものだったらある、くらいでしょうか。マイナーなゲームですが、SWERYさんというクリエイターが作った「The MISSING – J.J.マクフィールドと追憶島 -」というゲームは、LGBTをテーマにしています。日本から出た作品としてはかなり珍しいものだと思いますね。ただSWERYさんは、海外での活動も多い方ではあるんですが。

――となると、やはり日本ではなかなか変化が望めない……?

今井:海外のゲーム文化では、女性やLGBTは、2010年くらいからのテーマとなっています。「Women In Games International」という国際女性ゲーム連盟が2005年にはすでにできていました。こうした活動は一定の成果をあげてきたと僕は考えています。海外の動きではありますが、ゲームの中にもフェミニズムの運動は明確にある。日本は、これからなんだと思いますよ。
(取材・構成/カネコアキラ)

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