重度知的障害者を家族に持つ私が、「やまゆり園事件」を題材にした舞台を見て感じたこと、望むこと

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2019年2月公演「拝啓、衆議院議長様

 劇場へ足を運んだ観客と演じ手だけが共有することができる、その場限りのエンタテインメント、舞台。まったく同じものは二度とはないからこそ、ときに舞台では、ドラマや映画などの映像では踏み込めない大胆できわどい表現が可能です。

 世間で大きな事件が起きたとき、創作の世界でモチーフにされるのはよくあることです。東日本大震災が起きた後、予定していた演目をから震災の影響を受けた内容に変更した劇団やユニットが、いくつもありました。そのほとんどは、直接的すぎたり表面をなぞっただけだったりで、期待を裏切るものでした。モチーフの事件が起きてから作品として昇華されるまでには、リサーチを含む物理的な時間が必要なのだと感じています。

姉は重度の知的障害者

 先月、東京・池袋の小劇場で公演されたPカンパニー「拝啓、衆議院議長様」は、知的障害者福祉施設「津久井やまゆり園」の入所者が元職員の男に襲われた2016年の相模原殺傷事件を題材にしています。犠牲者数の多さや、彼らが重度の障害者であるからこそ狙われたこと、そして、それゆえに犠牲者の氏名が伏せられたことなどから大きな注目を集めました。事件発生から約2年半、世間の関心は薄れていたとしても、物語にするにはまだ早すぎる。

 そう思って筆者は本心ではナメてかかっていたのですが、忖度や自主規制がチラつく昨今の風潮のなかでよくここまで突っ込んだなという驚きとともに、記録でなく記憶にとどめる舞台ならではの力を、改めて感じました。

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 8月25日・26日に渡って『24時間テレビ41 愛は地球を救う』(日本テレビ系)が放送される。第41回目となる今年のテーマは「人生を変えてくれ…

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重度知的障害者を家族に持つ私が、「やまゆり園事件」を題材にした舞台を見て感じたこと、望むことの画像2 ウェジー 2018.08.26

 物語の主人公は、死刑制度廃止を支持する弁護士の太田憲明。太田は、志を同じくする先輩弁護士の遠山勇一から頼まれ、1年前に重度知的障害者施設を襲い入所者19人を殺害した、元職員の松田尊の国選弁護団に入ります。

 松田は意思疎通のできない障害者を「心失者」と呼び、事件を起こす前、衆議院議長あてに、心失者が生きている意味はないという自身の主張をつづった手紙を届けていました。太田が松田に初めて接見した際、その手紙の内容とともに彼の過去の挫折経験や人間関係が語られていきます。行き過ぎた主張を変えない松田に対し、死刑は当然だと感じてしまい弁護に迷う太田。障害があっても生きるに値しない命など存在しないのなら、犯罪者である松田であってもその命は同じく、死刑で奪ってよいものではないはずと、太田は葛藤します。

 私事ですが、筆者には姉がおり、重度の知的障害を持っています。個人的な意見ですが、相模原殺傷事件が起きたとき、犯人の主張には理解できる部分がわずかに、ないわけでもないと感じました。

 障害者施設のなかには、入所者をただ寝かせているだけ、という施設も存在します。それは障害の重篤さゆえで仕方ない場合もあるのですが、無上の愛情を注げる家族とは違って、仕事になるまで障害者と接したことがなかった職員にとっては、その光景は別のものにもみえることがあってもしょうがないのではないかと。

姉が健常者だったらよかったのにと考えたことは数えきれない、けれど。/「家族に障害者がいる日常」前篇

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重度知的障害者を家族に持つ私が、「やまゆり園事件」を題材にした舞台を見て感じたこと、望むことの画像2 ウェジー 2016.09.29

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