重度知的障害者を家族に持つ私が、「やまゆり園事件」を題材にした舞台を見て感じたこと、望むこと

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自分のなかにも“彼”がいるのでは

 被告の松田は少し気弱で、それを隠すために虚勢を張っていて、外見や学歴にコンプレックスがあって……穏やかで理路整然とした語り口であり、一見するとどこにでもいる青年のようにもみえます。だからこその怖さ。太田との接見では話がどこまでも平行線で、自己愛性パーソナリティ障害であることが後に、精神科医から語られます。

 太田は、事件の本質を理解しようと松田の家族や被害者遺族、精神科医への聞き取りに奔走します。家族ですら息子の主張に怯えて遠ざけてしまった松田の起こした事件に、憤りや恐ろしさを叫ぶひとたちのなかで、松田の存在を「悲しい」と語ったのが、元同僚の施設職員、千葉由紀子でした。

 驚かされたのが、千葉のセリフのなかで、事件の起きた施設は市街地から離れた山の中にある、と触れられていたことでした。そうした施設で働く職員たちは、一般社会から隔離されたような状態である、とも。現在、障害者の入居施設は、地域との共生を掲げられ規制緩和がすすめられていますが、かつては、国の定めた制度のもと「コロニー」と呼ばれる大規模な施設に入居していました。相模原殺傷事件のあった施設がコロニーだったものかどうかは、立地や収容人数の多さから、おそらくそうだと推測されますが、報道などで示唆されることはまずありません。

 千葉は、事件の犠牲者で生還した重複障害の間宮康太の介護を担当しています。肢体不自由のために力の加減がきかない間宮に強く腕を握られても、千葉は痛みを顔に出しません。たとえ入居者に危害が加えられることがあっても、反応すると入居者はそれを“コミュニケーション”ととらえてしまい暴力が悪化することもあるからと、千葉は明かします。

 「自分のなかにも、松田さんがいるのではないか。そう思うと、悲しい」という千葉の言葉は、リアルです。入所者にやさしい千葉のような職員であっても、社会から切り離された環境で障害者という弱者を相手に過ごすことで、松田サイドへ転びかかる揺れがありうるーー介護業界の置かれた厳しい環境の表れです。

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重度知的障害者を家族に持つ私が、「やまゆり園事件」を題材にした舞台を見て感じたこと、望むことの画像2 ウェジー 2015.12.11

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