「男女半々だから良い」は安易な政策 日本が目指すべきは男女平等か、男女公平か

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教育における男女平等と男女公平

 では、教育において男女平等と男女公平はどのようにして扱うことが出来るでしょうか? ここでは私の本業である途上国を例に出してみたいと思います。再三再四この連載でも言及しているように、日本は教育における男女平等の実現からほど遠い所にありますが、多くの途上国も似たような状況にあります。

 途上国で学校にアクセスできない・退学してしまう理由は男女間で大きく異なります。どちらも貧困が背景にはあるのですが、男子は主に働くために、女子は主に結婚・妊娠のために学校システムからいなくなります。

 こうした状況を改善するためにはどういった方法が考えられるでしょうか? 「直接の理由は異なっているけれど、貧困という間接的な原因は同じなのだから、それに取り組めばよい」と思うのが一般的かもしれません。こうした考え方は、大きくは間違っていません。実際、現在途上国の教育支援では、貧困層への直接の現金給付が一大ブームとなっていますし、大きな成果を生み出しています。

 しかし、本当にこれで良いのかと言われると、教育の専門家としては「良くない」と言わざるを得ません。というのも、こうした方法は、別の問題を後ろ倒しにしているだけに過ぎないのです。

 以前の記事で、先進国では「男子の落ちこぼれ問題」が火を噴き始めていることを説明しました。この問題は「早く稼げるようになることこそが男として一人前の証であり、教育を受けるのなんてバカバカしい」というマスキュリニティ(男性性)の存在が原因の一つとして挙げられます。

 また、日本の女子教育が拡充しない理由の一つとして「女の子が学歴を求めていては結婚できなくなる」といったジェンダーステレオタイプの存在があります(朝日新聞でこの問題を取り扱った特集があるので、ぜひ目を通して見てください)。

 このように、途上国と日本を含めた先進国の教育とジェンダー問題の構図は、単に豊かさが違うために問題が小中学校で発露するのか、大学・大学院レベルで発露するのかの違いに過ぎないのです。

 つまり、男女平等にお金を配って教育問題を解決するという手法は、全体の教育水準を向上させることには有効であっても、問題が発露するのが単に後ろ倒しになるだけで教育における男女公平には至らないことが分かります。これが、男女平等であっても男女公平ではない教育政策の一例です。

 では、途上国で実施される男女公平な教育政策にはどういうものがあるのでしょうか。

・学校に女子トイレが無いと初潮を迎えた女子が学校を休まざるを得なくなる。場合によっては退学につながるので、女子トイレを優先的に整備する
・低年齢での出産がいかにリスクの高いものであるか、女子の教育水準が伸びるとどのようなメリットがあるのか、といったことをコミュニティに訴えかける
・強いマスキュリニティを解消するために、青年団体やギャング組織への働きかけを行う

 これらの教育施策は、男子か女子のどちらか一方を対象としているので全く男女平等ではありませんが、男子・女子それぞれが抱える教育上の課題に取り組んでいるものです。こうした施策が同時に実施されれば男女公平な教育施策と言えるでしょう。

 教育はそれ自体が目的ではなく、将来何かを実現するための手段であることを考えれば、男女平等ではなく男女公平を目指した施策が為されていくことが望ましいと考えることができるはずです。

まとめー日本が目指しているものは男女平等か、男女公平か?

 では今の日本の教育や社会が目指しているのはどちらでしょうか?

 現在、国会議員ないし、その候補者が男女半々になること、中央省庁の幹部職員のX%が女性になることなど、数々の目標が掲げられてはいます。しかし、それを実現するための女子教育の重要さは見過ごされているのが現状です。つまり、日本はいまだに男女平等を目指しているに過ぎないのです。

 日本の教育を見ると、男子は家族を養って一人前というジェンダーステレオタイプに影響されてか、一般職・看護師・保育士などを目指した進路が取りづらくなっています。また、女子は教育を受けると結婚できない、手に職を付けるべきだといったジェンダーステレオタイプから学歴・学校歴も低く、理系への進学も低い水準にとどまっています。

 また、日本には性的マイノリティの子供がいじめられる・自殺するという深刻な社会問題も存在しています。子供達に関係する全ての課題とニーズが配慮される社会にするには、「男女半々だから良いか」という安易な政策ではなく、それぞれが持つ異なる課題・ニーズに対応した教育政策が必要なのです。

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