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米中通商交渉の本音は貿易赤字の解消ではない

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トランプ大統領 写真:AP/アフロ

”成果”を上げたいトランプ氏の事情

 米国のトランプ大統領が中国との通商交渉の合意が近づいたとして関税引き上げの期限を延長したことで、市場には安ど感が広がっています。株式市場は昨年の「貿易摩擦の恐怖」から、「合意への期待」に変わり、米国の株価は昨年下げた分をほぼ取り戻しました。しかし、米中の通商交渉には大きな「ねじれ」と政治的な駆け引きがあって、簡単には解決の糸口が見えません。

 まず米国では、トランプ氏の「ロシア疑惑」に対するモラー特別検察官の調査が進んでいます。多くの疑惑を抱えるトランプ氏は、大統領の間は逮捕できないという「不逮捕特権」にすがらざるを得ない面があり、次の大統領選挙では何が何でも再選が必要です。そうすれば、議会から弾劾されない限り、あと6年近くは「身の安全」が保障されます。トランプ氏が米中通商交渉で大きな得点を挙げたい事情は、そこにあります。

 米国は、中国が巨額の対米黒字(2017年で3700億ドル)を出し、それだけ米国の生産や雇用を奪っている、と主張しています。しかし、そもそも米国には労働力の供給余力がなく、海外で生産して米国に持ち込んでいる面もあり、貿易不均衡は米国の都合による面も少なくありません。これは中国を叩いても解決するものではありません。むしろ、米国の中国攻撃の狙いは別にあります。

米国の本当の狙いは対米黒字の解消ではない

 米中通商交渉の「ねじれ」にもなっているのですが、米国が中国を攻撃する本当の狙いは、対米黒字の解消ではなく、米国の経済覇権を脅かす中国のハイテク化を軸とした経済覇権の阻止にあります。それが中国の実力によるものならともかく、米国技術の「窃盗」によるもので、しかもそれを中国政府が国有企業への補助金提供で後押ししている点にあります。

 米国は、中国が米国の知的財産権を侵害し、中国に進出する米国企業に対して技術移転を強要し、しかも通常からサイバースパイを続け、さらに中国政府がこれらを後押しするために、国有企業に補助金を与えている点を指摘し、その是正を迫っています。中国が進める「メイドイン・チャイナ2025」構想は米国技術に立脚しており、その結果経済安全保障を脅かすとの危機感が米国にはあります。

 したがって、表向きは通商交渉ですが、米国としては貿易不均衡の是正にはさほど重きを置かず、むしろ知財権侵害や技術の強制的移転、国有企業への政府補助金の停止を求めています。この経済改革で中国が具体的な「約束」を提示しないと、米国の対中攻撃は終わりません。かつて1990年前後に、米国は日本に対して同じように「構造協議」を求め、日本経済の弱体化を図りました。

 もはや日本は米国にとって「脅威」ではなく、代わって脅威となりつつある中国の台頭を早めに叩き、その芽を摘んでしまおうとの狙いがあります。

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