
『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版社)
人前で食事をすることができない「会食恐怖症」。会食に対して耐えがたい不安や恐怖を抱き、吐き気やめまい、胃痛、動悸、嚥下障害をはじめとするさまざまな症状が表れてしまう精神疾患です。
日本会食恐怖症克服支援協会の代表理事をつとめる山口健太さん。自身が会食恐怖症を克服した経験を活かし、同様の疾患に悩む人々へのカウンセリングや、学校や保育施設への給食コンサルティング活動を行っています。山口さんの活動や、著書『会食恐怖症を卒業するために私たちがやってきたこと』(内外出版)についてお話を伺いました。
こんな悩みは自分だけかもしれない
——「会食恐怖症」という疾患はまだ認知度が低く、この言葉を初めて目にした、という方も多いかと思います。
山口:これまでに「会食恐怖症」を単体で取り扱った本ってなかったんですよね。社交するあらゆる機会に大きな不安を感じる「社交不安症」というものがありますが、会食恐怖症はその一つとして分類されていて、そういう疾患についての本の、それこそ200ページに1ページくらいの分量で説明が載っているくらいでした。
そこで書かれている症例も「食べているところを見られるのが嫌な人がいます」というサラッとしたもので。実際には見られるのが嫌な人もいれば、嘔吐してしまうことへの恐怖や、「全部食べ切らなきゃ」「おいしく食べなければ」という強迫観念がある人もいる。不安を感じる部分にも、出てくる症状にもかなり個人差があるんですが、そのあたりの認知がまだ広まっていないですね。精神科のお医者さんでさえ「そんなものはない」って言う人がいるくらい。
——山口さんは高校時代、所属していた野球部の合宿をきっかけに発症されたそうですね。
山口:もともと少食な方だったんですけど、高校の野球部は「食べて体を作るのもトレーニングのひとつ」みたいな感じで、量を食べるようかなり厳しい指導をしていたんですね。合宿の張り詰めた空気の中で、周りの人たちと同じ量を食べなければならない。そういうプレッシャーもあって残してしまったら、監督に部員みんなの前で怒鳴られてしまって。そこからどんどん会食に対する恐怖が高まっていって、食事のことを考えただけでも気持ち悪くなってしまうほどでした。「周りに合わせられない」とか「みんなと同じように食べられない」とか、やっぱり食事そのものというより、人との関わりに対する不安があったんだと思います。だから安心できる場所にいたり、信頼できる友達と一緒にいたりっていう条件が揃えば食べられるけど、そうじゃないときには食べられない。
——当時はどんな気持ちでしたか?
山口:気持ちの面では「孤独」っていうのがすごく強かったです。普通の感覚だったら、ご飯って楽しく食べるものじゃないですか。でも、自分はそれができないし、できないという実感を分け合える人もいない。こんな悩みを持ってるのは世界で自分だけ、って思っていたんですよね。
どっちのほうがつらいという話じゃないですけど、これがたとえば拒食症とかであれば、一つのジャンルみたいなものが確立されているし、当事者の人たちもその旗を頼りに集まれるじゃないですか。僕の場合、完全に食べられないわけではないから病院に行くのが正解なのかも当時は分からなかったし、「なんでこんなことになっちゃったんだ」っていう寂しさと絶望感がありましたね。
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