「あらゆる病気・障害を治せる」としている代替医療・ホメオパシーとは?

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「Getty Images」より

 山本太郎議員が2月16日に日本母親連盟主催の講演会に出席し、日本母親連盟を批判したことが話題になりました(山本太郎氏、日本母親連盟を支持者の面前でぶった斬り!)。山本議員は日本母親連盟や関連の深い人物をあげながら、様々な問題について批判する中、「ホメオパシー」にも言及しています。

 ホメオパシー」については、名前くらいは聞いた事があるけれども、実際にどういうもので、どんな問題があるのかまでは詳しく知らない人も多いのではないでしょうか。10年ほど前になりますが、ホメオパシーによる「K2シロップ事件」(別の記事で解説します)などの死亡事件が次々と発覚して社会問題となりました。最近では、社会全体として当時の記憶が薄らいできている様です。そこで本記事では、ホメオパシーの歴史や基礎知識などのおさらいから始めます。

ホメオパシーとは

 ホメオパシー(同種療法)は約200年前にドイツ人の医師であるサミュエル・ハーネマンによって提唱された民間療法です。

 「あらゆる病気・障害を治せる」としているホメオパシーの理論は、患者と同じ症状を引き起こすと考える物質を「薬効成分」として、それを何度も水で希釈して振とうすることで(具体的には、100 倍希釈して振とうする作業を10数回から30回程度繰り返す)薬=レメディを作ることができるというもので、希釈度が高いほど効果があるとされています。希釈した水を砂糖玉に染みこませたレメディが主流です。

 ホメオパシーのレメディを作製する「希釈&振とう」のイメージ図は以下の通りです(分子を丸印で描いていますが、見やすさを重視して丸の個数は不正確です)。

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 ホメオパシーが考案された約200年前は、医学が未発達な状況で、手術はとても危険であり、治療法として鴻血や強い下剤、毒物(水銀、ヒ素など)を大量に投与するなどという、現在ではとても考えられない荒っぽいことが医療行為とされていた時代でした。そうした中で、ホメオパシーは安全な治療法としてヨーロッパ諸国や米国に広まり、その後世界各地に広められていきました。

 考案された当時は、まだ物質を構成する「分子」の存在は知られていませんでしたので、創始者ハーネマンは希釈を繰り返してもごく微量の有効成分が残っており、それによる効果があると考えていました。ハーネマンの死後、科学研究が進んだ事により物質が分子でできている事が解き明かされ、ホメオパシーの希釈方法だと元物質が1分子も残っていない(すなわち、ただの水である)ことが判明しました。薬効成分が残っていないので原理的に考えても効果を出す事はあり得ませんし、実際にプラセボ(偽薬)効果以上の治療効果も無いことが多数の臨床試験を解析した結果によっても明らかにされています(後述)。

 元物質が1分子も残っていないと判明してからは、ホメオパシーに効果がある理由として「水には物質の記憶がずっと残っている」という説明が加えられました。しかし、水分子の運動はとても速くて「水の記憶」はたった0.000000009秒しか保てません。「物質の記憶がずっと残る」のがもし本当であれば、水は地球を広範囲に循環(蒸発→雲→雨)して様々な物質と接触し、さらに大自然の力(海流、風、地震など)によって「振とう」されているので「世界中の無数の種類の物質が記憶されている」ことになります。したがって水には、特定物質を入れてレメディを作成する前に、様々な物質の記憶が残されていることになります。特定物質だけを記憶させたレメディを作るのは困難になりますが、こうした矛盾は無視されています。

 ごく微量に残存している物質が治療効果をもたらすと考えたハーネマン考案のホメオパシーは科学的に棄却されたのです。しかし、ホメオパシーを治療法として諦めきれなかった人達が継承していき、現在ではその理論は科学的な裏付けを欠いた「呪術」の様な体系となり、色々な流派に分かれています。日本に本格的に導入されたのは約20年前からです。それ以前から海外では治療効果のないホメオパシーに頼ったことによる健康被害が問題となっていました。欧米諸国では民間療法としてホメオパシーが定着していたことから規制が難しく、英国ではNHS(国民保健サービス)が2017年にようやくホメオパシーを保険適用の対象から除外する決定をしました。

NHS to ban homeopathy and herbal medicine, as ‘misuse of resources’

 日本では、1900年代末にホメオパス(ホメオパシー指導者)養成学校・レメディ等の販売会社・ホメオパシー関連の学協会などの設立が続いてビジネス化が進みました。ホメオパシー関連本やホメオパシーを好意的に取り上げる雑誌記事が増え、集客性があると見込んでホメオパシーを診療に取り入れる医療関係者も増えていきました。西欧貴族やセレブが愛用していると宣伝されて高値で売られているレメディは、「水」を浸み込ませた砂糖玉なので原価は安く、文字通り「甘くておいしい」商売でしょう。

 それから10年ほど経った頃に、日本でもホメオパシーによる被害が相次いで報告されました。ホメオパシーによる死亡事件が話題となった平成22(2010)年には、事態を憂慮した日本学術会議から「ホメオパシー」についての会長談話が出されています。

平成22(2010)年8月24日 日本学術会議会長談話(冒頭と最後の部分から引用)

 米国では1910年のフレクスナー報告に基づいて黎明期にあった西欧医学を基本に据え、科学的な事実を重視する医療改革を行う中で医学教育からホメオパシーを排除し、現在の質の高い医療が実現しました。

 こうした過去の歴史を知ってか知らずか、最近の日本ではこれまでほとんど表に出ることがなかったホメオパシーが医療関係者の間で急速に広がり、ホメオパシー施療者養成学校までができています。このことに対して強い戸惑いを感じざるを得ません。

(途中略)

 最後にもう一度申しますが、ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを「効果がある」と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です。このことを多くの方にぜひご理解いただきたいと思います。」

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ホメオパシー宣伝本の例(平成22(2010)年8月24日 日本学術会議配布資料より)

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「高価」なレメディの販売(平成22(2010)年8月24日 日本学術会議配布資料より)

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