「食べさせる」ことが教育なのではない
——著書の中で紹介されている「さくらしんまち保育園」の給食指導、あれはとてもいいなと思いました。セミビュッフェ形式になっていて、子どもたち一人ひとりが自分の食べる量を選択できるようになっている。
山口:あそこの給食は、すごくいいですよ。本の中ではセミビュッフェ形式の話とかしか取り上げていないんですけど、実はもっと他にもすごいことをしていて……。
給食がね、ヨーロピアンスタイルなんですよ。というのは、日本の学校給食って、時間は12時20分から、20分かけて準備をして、40分でいただきます、13時までにはごちそうさま。だから食べる時間は20分っていう区切り方をされているじゃないですか。でもここは、給食の時間が2時間ぐらいあるんですね。しかもセミビュッフェ形式だから、好きな時間に行けるんですよ。
——空いている時間に学食に行く、というのと同じような感じで。
山口:そうそう。カフェテリアみたいになっていて。なんでそういうふうにしたんですか、って僕も聞いたんですよ。そうしたら「朝ごはんを食べる時間がみんな違うから」って。学校だったら8時15分から1時間目、みたいな感じだけど、保育園って違うわけですよね。ご家庭によって、7時に保育園に連れて来なければならないところもあれば、9時とか10時になるところもある。そうなると、子供たちが朝ごはんを食べる時間っていうのは1時間2時間ずれているわけです。だからヨーロッパの保育園を参考に、そういう形にしたっておっしゃっていて。
——個々の状況の違いをふまえたうえで対処されている。
山口:あそこは月に一度、給食会議というのもやっているんですよ。栄養士さんや調理師さんはもちろん、園長先生、園の担任の先生が全員集まるんですけど。子どもたちが給食でどれぐらいの量を食べているか、咀嚼とか嚥下の発達はどれくらいか、食べ物は何が好きで何が嫌いかとか、どれぐらいのペースで食べられるか、っていうのを全部リスト化して管理しているんです。
——それは、ものすごい労力がかかる作業ですね……。
山口:「なんでそんなにできるんですか」って園長先生に聞いたら、「食が全てを表すから」っておっしゃっていました。つまり、食欲がない子っていうのは何か問題を抱えていると。友達関係かもしれないし、親子関係かもしれない。「食」っていうのを見ればその子の状態がわかるし、逆に言えば、「食」が良くなればその子自身もどんどん元気になっていく。そこに集中して対処することによってみんな元気に過ごせるんですよ、って。僕もそれはすごくよく分かるし、なるほどなと思いましたね。食欲が出る状態を作るっていうのは、日常生活を元気にしていくことに繋がるっていうのは実感していたので。
――学校給食の現場で、そういった指導は可能なのでしょうか。
山口:ビュッフェ形式が無理でも、個別に量を調整する時間を設けるとか。引っ込み思案な子もいるかもしれないので、そういうときは先生が聞いていったりとか。やっぱり一人ひとり対応していくっていう意識がないと、なかなか食べてもらえるようにはならないと思うんですよね。「この子はこれが苦手なんだな」「この子に対してはこうしよう」っていうのって、結構個人差があったりするので。あと、先生が子どもの班に混ざって給食を楽しく食べているクラスは、比較的残飯が少ないと思っています。
——その個人によっての違いを、自分自身で把握できるようになったら楽ですよね。
山口:そうですね。この間、AbemaTVで共演した乙武洋匡さんが番組中に言っていたんですけど、「食べさせるのが教育なのではない、どのぐらい自分が食べられるのかを把握させてあげることが教育」なんだって。ただ、今の現場では「とにかく食べさせる」っていう負のバトンがどんどん受け継がれてしまっているかな。どこかで革命を起こして、断ち切らないといけない。実際、学校という場所では先生たちもエネルギーを消耗したり、ストレスを抱えていたりするわけですけど、その現場でいかに取りやすい方法を提示できるか。やれることから少しずつやっていくしかない。まず今日からできるのは「居残りをなくす」っていうことですよね。
(聞き手・構成/餅井アンナ)
1 2