すでに打たれていたアマゾンの布石
出版社にとっての最大のリスクは、返品だ。これをアマゾンが「買い切り」でなくそうとしていることは、出版社にはおおむね歓迎されている。刷った分だけ確実に売上げが上がるためだ。アマゾン側も、返品しない代わりに在庫を必ず売り切る必要があるため、売れ残りの値下げ販売について出版社と交渉を行おうとしている。
もしアマゾンが返品制度を業界から取り払うことができれば、書店も仕入れた本を必死にさばかなければならなくなる。出版社としてはこれが出版業界の活性化につながるかもしれないと期待を寄せているようだ。
実は、アマゾンの「買い切り」発表は唐突ではなかった。2017年6月末にバックオーダー発注を中止していたことがその前兆だった。バックオーダー発注とは、取次に在庫がないときに限り、アマゾンが出版社に直接発注することを言う。
これを中止すれば、アマゾンは取次に在庫がない商品を売ることができなくなる。ところがアマゾンは、バックオーダー発注を中止するとともに、個々の出版社に取次を通さない取引を持ちかけたのだ。
日本には3000社以上の出版社があるといわれているが、このうちアマゾンとの直取引に応じた出版社は2329社に上るという。(プレジデントオンライン:2018/5/22)https://president.jp/articles/-/25143
つまり、アマゾンはすでに取次外しを始めていたといえる。書店に自社の販売スペースを確保できない中小出版社は、すでにアマゾンへの依存度が高まっているだろう。となれば、アマゾンとの直取引に応じないわけにはいかない。アマゾンはこうした地ならしを経て、いよいよ「買い切り」に踏み出そうとしているのだ。
新品の本が割引になる日
日販グループの2017年度決算報告によれば、書籍返品率は31.3%と悪化している。(日本出版株式会社:2018/5/30)
出版した3割が売れずに戻ってくるのだ。これをアマゾンが「買い切り」にするということは、出版社側から見れば「売り切り」となる。出版した分がすべてさばけるのであれば、多少の割引セールも容認できよう。ほかの商品であれば普通に行われていることだ。この「普通」が出版業界にも取り込まれようとしている。
まさに、アマゾンによる日本の出版業界への挑戦状だ。これに対して日本の出版業界、特に取次と書店はどのように応えるだろうか。いずれにせよ、読者にとっても出版文化にとってもWin-Winとなることを期待したい。
ただ、懸念すべきこともある。私は書店巡りが好きなのだが、売れ筋商品をアマゾンが買い切ってしまうと、リアル書店に配本される分がなくなり、特に中小型書店には売れる本が回ってこないことも考えられる。これこそまさに取次が調整していたことだからだ。
ただでさえ、町から書店が消えていく状況にあるのに、これに拍車がかかるかもしれない。出版社、取次、書店、そして読者の四方良し、という改革案はないだろうか。