
「Getty Images」より
外国人労働者の受け入れ拡大
4月1日、在留資格「特定技能」の創設により、外国人労働者(※1)の受け入れを拡大する改定入管法が施行された。これまでは「単純労働者は受け入れない」として、非熟練労働市場での外国人労働者の受け入れを公式には認めてこなかった政府の姿勢を実質的に転換するものだ。
(※1 本来は、国際的に「働く移民」を指す用語として使われている「外国人労働者 migrant worker」という言葉を使うことが望ましいが、本稿ではメディア等で使われる「外国人労働者」を使用する)
とはいえ、すでに街角の建設現場、コンビニや居酒屋など、日常生活で働く移民を目にする機会が増えたと感じている人は多いだろう。実際、日本で暮らす外国籍者の数は昨年末に約280万人に達した。このうち働いている人も140万人に上り、5年前と比べて倍増している。特に、最近増加が著しいのは技能実習生や留学生である。また全体としてみれば、外国人労働者のうち最も多いのは、日系人や国際結婚女性などをはじめとする永住者であり、次に留学生、技能実習生と続く。
これだけ多くの外国人労働者が働いているにもかかわらず、政府はこれまで、そうした現場では外国人労働者は受け入れていない、という立場をとってきた。したがって今回の新制度の導入は、メディアや移民研究のなかでたびたび指摘されてきた建前と現実のズレを一定程度解消するものではある。
しかし政府は、この受け入れを「外国人労働者の受け入れ」ではなく、「外国人材の活用」と呼んでいる。この「外国人材」という奇妙な用語は、安倍政権になってから使われるようになったものである。ここには、政府が外国人労働者をどのように眼差しているのかが典型的に表れている。
例えば、この政権があわせて進めようとしている「女性の活躍」という標語と比べてみればわかりやすい。筆者は「女性の活躍」という言葉を手放しで評価している訳ではない。むしろ「余計なお世話」というか、なぜわざわざ女性だけ活躍を求められなければならないのかという思いを抱いている。しかし「女性が活躍する」という文章が成り立つように、少なくとも、ここでは女性が主体である。一方「外国人材の活用」では、「外国人材が活用する」という文章は成り立たない。活用する主体は、あくまで日本社会や企業で、外国人材はその客体にすぎないのだ。
くわえて「人材」という言葉である。「女性人材」とは言われない。それは、こうした物言いが、人を道具として扱っていることをあからさまに示す響きがあるからだろう。「外国人材」、それも「外国人材の活用」という呼び方が許されるのは、外国人労働者を、人手不足を補ってくれる「道具」として扱おうとする、もはや建前さえ取っ払ってしまった政府の姿勢が端的に表れている。
「特定技能1号」と技能実習制度
だが外国人労働者を、人手不足を補う「道具」のようにみなしているのは政府だけなのだろうか。実はそもそも日本社会において、そうした眼差しは珍しくないのかもしれない。そのような思いが、今回受け入れが開始された「特定技能」労働者に(制限はあるものの)認められた転職の自由に対する懸念の声を聞くにつれ強くなってきた。こうした懸念は、国会審議の途中から国会議員やメディアによって指摘されるようになり、法制定後に定められた「特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針」には「大都市圏その他の特定の地域に過度に集中して就労することとならないようにするために必要な措置を講じるよう努めるものとする」との文言が加えられた(※2)。
(※2 またこの方針において、転職が認められるのは「同一の業務区分内又は試験等によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間」に限られた。くわえて転職の場合、出入国在留管理庁において「在留資格の変更許可」を受けなければならないとされた(「特定技能外国人受入れに関する運用要領」)。こうした規定は、外国人労働者の転職を実質的に制限するものである)
なぜ特定技能労働者の転職の自由が問題になるのかといえば、今回の受け入れがこれまで原則として転職の自由を認めてこなかった技能実習制度との比較で考えられているからである。
技能実習から特定技能へ移行する場合、技能や日本語の試験が免除される。また産業によっては技能実習からの移行が受け入れの半数以上になると言われており、特定技能は技能実習制度の延長ともいえるような位置づけになっている。さらに、在留資格「特定技能」には、1号と2号という種類があるが、1号は、技能実習制度同様、5年が上限で家族帯同も認められていない(図1 参照)。その後、永住につながる2号に移行できるのは、現時点では14業種中2業種だけだ。他の在留資格に移行できる介護を加えても、3業種だけが永住につながる。つまり特定技能1号も、大半は使い捨ての制度になっている。
このように、特定技能1号と技能実習制度は類似した制度になっている。一方で、大きな違いは、二つの制度の目的にある。特定技能1号が、人手不足の業種における外国人労働者の受け入れを目的としているのに対し、技能実習制度の目的は、「人材育成を通じた開発途上地域等への技能等の移転による国際協力を推進すること」である(技能実習法第1条)。
この技能実習制度の目的は、技能の修得のためという名目で、彼らの転職の自由を制限する根拠となってきた。それはまた、送り出し国で多額の借金を背負って来日するという事情ともあわさって、技能実習生を職場に縛りつける効果をもたらしてきた。定められた職場から移動できない技能実習生は、最低賃金レベル、あるいは多額の控除により実質的には最低賃金以下の収入で働いているケースも少なくない。こうしたことから、アメリカ国務省をはじめ国際社会からは、技能実習制度は「現代の奴隷制度」とさえ批判されてきた。
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