看板を下ろしたあとに残るもの
及川:私はいま59歳で、周囲はみんな会社の定年を迎えるんです。いままで会社の看板で判断されてきたけど、看板が外れてもひとから求められるのか、自分自身にはどんな価値があるのか。その差がつくボーダーにいるわけですから、彼らがどうなるのかちょっと楽しみ(笑)。
何かを始めるのを勧めるのは、それもあります。作家でも評論家でも、会社にいるあいだに名刺を作れるくらいの趣味を作っておけば、もし次の仕事で求められなくても「本業はこれですから!」って、プライドを保てられるんですよ。
――本書の内容には、個人的に身につまされることも多いです。人生を楽に生きるためには、誰かを見返したいという悔しさは前向きなモチベーションに変えればいいのだと理解できたのですが、それでも、かつてこっちが気を遣っていたら見下してきたり、人脈だけかすめとっていかれたりした嫌いな相手に、イラつく気持ちはやっぱり消えなくて。どうしたらいいんでしょうか。
及川:すごく腹が立ったとしても、自分にとって重要じゃないことは徐々に忘れていきます。忘れられないのは、思い出そうとするからでは? それに、新しい嫌いなひとができたら、その相手のことも忘れると思います。
ひとをきらうのは、罪でも何でもないんです。無理に相手を好きになろうとしたらしんどいですよ、だって好きになる必要がないんだから。『誰かが私を〜』で対談している作家の中村うさぎさんや私は、「こんなやつになりたくないなー」「あいつやだなー」と思ったら、それをネタにごはん食べますよ(笑)。
「人生100年」時代、定年後のキャリアにつながる意外な副業とは?
政府による“働き方改革”が進む日本だが、とりわけ2018年は “副業元年”と呼ばれる。 世間の大半の企業は、厚生労働省が発表している「モデル就業規…
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職場や学校など、逃げるのがむずかしい人間関係のなかで自分なりにうまくやっていくために、きらわれないとともに、相手をきらわない努力も惜しまないつもりでした。でも、そんなに肩に力を入れなくてもよかったのかも。『誰かが私をきらいでも』には、そう気づけるきっかけがひしめいています。
同書には、差し迫った環境に置かれたときの思いきり方や、子育ての悩みにも参考になるお手本も詰まっています。後篇では、及川氏自身のリアルな体験に基づいた知識とともに、クリエーターとして抱えた“業”も聞いていきます。
▼後篇:生きづらさを感じている女性に「届けたいメッセージ」はない