令和が来る前に世界に1つだけの花を――「ナカイの窓」の外、あるいはSMAPと移民の唄

文=ケイン樹里安
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 2019年4月1日。いわずと知れたエイプリルフールの日に、新たな元号が令和であることが発表された。平成元年生まれの自分にとっては、ついに「平成が終わってしまうのか」というなんともいえない寂しさを感じた。特に「平成生まれ」であることにこだわりをもっていなかったはずなのに、不思議なものだ。

 そんな令和をめぐるニュースは2つの意味で興味深かった。1つは、その言葉の由来が時代も海も超えて後漢にまでさかのぼれること。もう1つは、安倍総理がSMAPの「世界に1つだけの花」に言及したことだ。

 安倍総理は(異例の)記者会見で「日本国民の精神的な一体感を支えるもの」として1200年ほど前に編まれた万葉集から「令和」という文字がとられたのだと述べた。この言葉は、岩波文庫編集部のTwitterアカウントが即座にツイートしたように、後漢の科学者・張衡の「帰田の賦」という作品にまでさかのぼれるのだという。「日本国民の精神的な一体感を支えるもの」に海外のルーツ(経路)の痕跡が刻まれていることが、年を重ねるほどに実感される元号となったといえるかもしれない。安倍総理は万葉集にまでしか言及しなかったが、勢いを増す中国経済を意識することもできるし、全国各地の書店の「社会」の棚に中国への憎悪を煽る書籍がならべられる現状に目を向けることもできる元号だ。

 奇しくも、新たな元号の発表は、改正入管法の施行日である4月1日である。「労働人材」と「外国人」を、まるで木材や消費材といったモノのように呼ぶことで、「いずれ帰ってもらう」前提で働かせようという法律の施行日に、海外のルーツの痕跡を指し示す元号が発表されたわけだ。長安と洛陽を移動した張衡にせよ、実質上の移民である「労働人材」にせよ、越境する人々の存在を抜きにして、現代日本社会を語ることはできない。そのことが明白になった1日だった。「そんなことはない」と強がってみせても、それこそエイプリルフールの笑えない嘘にすぎない。

 さて、本稿にとって重要なのは、後者だ。

 安倍総理は、万葉集の「梅の花」について触れたうえで、「平成の時代のヒット曲に『世界に一つだけの花』という歌がありましたが」とSMAPの楽曲名に言及し「次の時代を担う若者たちが、明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる、そのような若者たちにとって希望に満ち溢れた日本を、国民の皆様とともに作り上げていきたいと思っています」と語ったのだった。

 惜しまれながらも解散した「国民的アイドルグループ・SMAP」の代表曲「世界に1つだけの花」。万葉集の梅の花のように、若者が「それぞれの花」を咲かせる日本になりますように。なんとも前向きな言葉である。シンガーソングライター・槇原敬之が作詞作曲を行い、音楽の教科書にも採用され、年末のNHK紅白歌合戦で幾度も歌われてきた、世界に1つだけの花。まさに平成を生きた人々の多くに聴かれた、言わずと知れた大ヒットソングである。平成から令和へと移り変わりを「国民」に意識させるにあたって、これ以上ないポジティブな言葉だろう。

 ところで、「世界に1つだけの花」は、「ナンバーワンにならなくてもいい、もともと特別なオンリーワン」という印象的なサビから始まり、次にリーダーの中居正広が「花屋の店先に並んだ、色んな花を見ていた。人それぞれ好みはあるけどどれもみんなきれいだね」と歌う構成であった。

 その中居正広が、令和が発表される2カ月前に、自身の名を冠したバラエティ番組『ナカイの窓』(日本テレビ系)での失言によって、炎上していたことをご存知だろうか。

 2月27日の放送内での、以下の発言である。

「外国人の研修生、最近なんか増えてるのよ。一万円札渡して、で、お釣りを千円札でほしかったんです。で、『お釣り千円で』って言ったら、『なんですか?』って言うから、『釣り千円で』って言ったら『ずりせんですか?』(と返ってきた)。『釣り千円で』って言ったら、『ずりせんですか? ちょっとすいません。店長さん、店長さん。ずりせん。ずりせん。なんですか?』って言ってた」

 文脈を補足すると、2月27日の放送回では、指原莉乃(HKT48)、ヒロミ、バカリズム、陣内智則のパネラー5人が世の中に対する不満を語り合うコーナーがあり、そのなかでの「コンビニのココを直して!」というブロックのなかで中居正広は、外国人のコンビニ店員とのコミュニケーションのトラブルを「笑えるネタ」として取り上げたのだった。いや、むしろ「嘲笑すべきネタ」というほうが正確かもしれない。なにしろ、日本テレビの公式サイトに記載のあるとおり、それは以下のような企画であったからだ。

「次回のナカイの窓は、大好評企画「世直しの窓 第2弾!」「いい加減、あれ直した方がいいんじゃないの?」という世の中の問題点を発表!コンビニのココを直して!日頃からお世話になっているコンビニの、ちょっと気になる問題点を指摘!中居が遭遇したコンビニでのちょっと恥ずかしいエピソードにスタジオ爆笑!(http://www.ntv.co.jp/nakainomado/onair/index.html

 そう、まさに「世直し」すべき対象としてコンビニで働く外国人に照準し、日本語の聞き間違いや「理解力」を「いい加減、あれ直した方がいいんじゃないの?」という話題として繰り出したのだった。筆者も視聴したが、「爆笑」というよりも、それはむしろ――続く陣内とのやりとりも含めて――やはり「嘲笑」というべきトーンだったと思われてならない(https://wezz-y.com/archives/64024)。

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