楽天はポイント付与で顧客を囲い込み
同社のポイント戦略が急加速したのは、2016年1月にスタートした「楽天スーパーポイントアッププログラム(SPU)」からだといわれている。
楽天市場では商品を購入すると、通常100円あたり1ポイントが付与される仕組みになっている。同社ではこうした通常ポイントに加え、楽天カードを利用すると追加でポイントを付与したり、期間限定でポイントが数倍になるといったキャンペーンを行ったりしてきたが、SPUはこれをさらに拡充したものである。
注文をアプリ経由にする、プレミアムカードを利用する、電話サービスの楽天モバイルに加入するなど、あらかじめ決められた条件を満たすと、通常ポイントの比較で5倍や7倍といった高額ポイントをゲットできる。ポイントは最終的には商品と交換できるので、このキャンペーンは事実上の大幅値下げといってよい。
楽天の場合、通常のポイント付与に必要な原資は出店者から徴収しているが、一連のキャンペーンに必要な資金は楽天本体が拠出している。度重なるキャンペーンの実施によって楽天の営業利益は押し下げられており、業績にも影響が出ているが、それでも同社がポイントを優先しているのは、それが顧客の囲い込みに重要な役割を果たしているからである。
一方、アマゾンはこれまで積極的なポイント付与を行ってこなかったが、日本市場は順調に拡大しており、楽天を猛烈に追い上げてきた。一部の調査では利用者数で楽天を上回っているとのデータも出ており、アマゾンは日本で営業する小売店としては珍しく、ポイントを付与することなく顧客の囲い込みに成功してきたといってよい。
今回、本格的なポイント付与に踏み切ったということは、楽天に王手をかけるため楽天の本丸であるポイント付与に踏み切ったと考えることもできるし、日本市場においてポイントなしで成長するのはこれが限界と認識した可能性もある。いずれにせよ大きな戦略転換となるのは間違いないだろう。
公取はどこまで本気なのか
だがアマゾンのポイント付与には暗雲も垂れ込めている。ポイント付与による出品者の負担増を懸念した公正取引委員会が調査に乗り出す可能性が出てきたからである。
世耕経済産業相は、ポイント付与によって出品者に過度な負担を強いるのは問題であると発言。公正取引委員会はアマゾンなどEC各社に対して調査に乗り出す方針を明らかにした。公取が問題視しているのは、ポイントの原資を誰が負担するのかという部分である。
ポイントを付与する場合、出品者が負担するケースとEC事業者が負担するケースに分かれるが、今回アマゾンが計画しているポイント・プログラムはすべて出品者負担となっている。契約内容によっては優越的な地位の乱用にあたる可能性があるという。
しかしながら、楽天のポイントも通常部分については出品者の負担であり、この費用は出品者が必ず支払わなければならないものである。どこまでを優越的地位の乱用とするのかは線引きが難しいだろう。
先ほどから説明しているように、日本ではポイント付与という商習慣が浸透しており、ここにメスを入れることになると小売業界全体にも影響が及ぶ。