社会

ホメオパシーが広まる背景にある“不安”と、忘れ去られたいくつもの死亡事件

【この記事のキーワード】
ホメオパシーが広まる背景にある不安と、忘れ去られたいくつもの死亡事件の画像1

「Getty Images」より

 山本太郎議員が、日本母親連盟を批判する際に「ホメオパシー」を取り上げました(山本太郎氏、日本母親連盟を支持者の面前でぶった斬り!)。「ホメオパシーの理論」が科学的に否定されており、「プラセボ効果(偽薬効果)」によってレメディが効いたと認識することを「「あらゆる病気・障害を治せる」としている代替医療・ホメオパシーとは?」では解説しました。

 「プラセボであっても症状が軽くなるなら問題ないではないか」と考える方もいるかも知れません。しかし、治療効果のないホメオパシーに傾倒してしまったことで、防げたはずの病気や、治せるはずの病気が放置され、症状が悪化し、最悪の場合、死に至るといった悲劇的な事件も起きています。本記事では、ホメオパシーによる諸問題を取り上げます。さらに、ホメオパシーの様な治療効果がない療法に頼ってしまう人達がいる背景についても掘り下げていきます。

ホメオパシーによる諸問題

 ホメオパシーは効果のない治療法ですが、前述の通り、個人が趣味で行う限りは放置しておいても大した影響はないと考える人もいるかもしれません。ここでまず問題になるのが、ホメオパシーは感染症も予防できると宣伝されており、必要なワクチンの代わりにレメディを飲んで安心してしまう人達がいることです。

 ホメオパシーの流派によっては、ワクチンを接種すると、ホメオパシーで体質改善してきた努力が台無しになってしまうと脅して、ワクチンを拒否するように仕向けます。本人たちは本当に効くと思っているのですが、実際には予防効果がないので、重い感染症に罹ってしまったり、後遺症が残ってしまったりします。特に問題なのは、感染症は他の人に病原菌やウイルスを広めてしまうことです。本人たちが感染して苦しむだけではなく、社会的な問題となってきます。

 次に問題なのが、ホメオパシーで子どもの病気を治療しようとする親です。ホメオパシーには効果があると思っているので、単純な「医療ネグレクト」ではありませんが、結果的に病気の子を無治療同然の状態にしてしまいます。海外では、子どもをホメオパシーで治療しようとして死亡させたことで両親が有罪になっている事例がいくつかあります。

オーストラリアの事例:皮膚病の子をホメオパシーで治療して死亡させた両親に有罪判決(2009年)

 日本でも、効果のないホメオパシーが広められたことで、それに治療を頼ったことによる死亡事件が相次いで起きてしまいました。新聞で報道された有名なケースとして「K2シロップ事件」があります。ホメオパシーの効果を信じてしまった助産師が、本来赤ちゃんに与えることになっている「K2シロップ」(頭蓋内出血を予防する効果がある)を与えず、親に無断でホメオパシーのレメディをその代わりに与えていました。その結果、その赤ちゃんは頭蓋内出血を起こして死亡してしまいました。

相次いで発覚した事件(平成22(2010)年8月24日 日本学術会議配布資料より)

ホメオパシーが広まる背景にある不安と、忘れ去られたいくつもの死亡事件の画像2

相次いで発覚した事件(平成22(2010)年8月24日 日本学術会議配布資料より)

 さいたま市の生後6カ月の男児は、体重5千グラム前後の低体重のまま、アトピー性皮膚炎が悪化して亡くなりました(病状等は前述のオーストラリアの死亡事例とよく似ています)。この男児の両親は助産師からホメオパシーを勧められて、病院での治療を拒否していました。これらは氷山の一角であり、実はもっと多くの犠牲者がいる可能性があります。

 犠牲者の1人である国立市の43歳の女性は、体調を崩してホメオパスから治療の指示を受けていましたが、ホメオパスは重篤な状態であるのを見抜けず「好転反応(一時的な悪化)だから大丈夫」だと説明していました。女性は「病院へ行くとショック死する」「西洋医療(現代の標準医療)を受けなければ死なない」と思い込んでおり、病院で診てもらう機会を失っていました。この件では、女性とホメオパスが交わしていたメールでのやりとりが残されています。女性が救急搬送される3日前に、ホメオパスは苦痛を訴える(がんが進行し末期状態であった)彼女に対して、「明日のコンサート、本当行きたいと思ったら行けるからね。」と指示し、気力の問題だとしていました。

 ホメオパス(先生)に縋る女性が送った最後のメールです。

「レメディどれもききません。痛すぎます。たすけてください。」
「心臓、止まりそうな痛さです。先生お願いですから来てください。」

 その後、女性は心肺停止となり救急搬送され、それから11日後に亡くなりました。この女性とホメオパスとのやりとりを読み、医学知識のない人がホメオパスの資格を得て医者の真似事をしている怖さを心底感じました。

 病気の多くは自然治癒していきますので、ホメオパシーを使っていてもなんとか乗り切れてしまうことも多いと思います。しかし、自然治癒が難しい病気だとホメオパシーではどうにもなりません。ホメオパシーで対処できる病気なのかどうか、医学の専門教育を受けていないホメオパスには分かりません。ホメオパスは、それまで経験してきた(時間がかかっても)自然治癒する病気の時と同様な指導を続けてしまうので、国立市の女性のような悲劇が起きてしまいます。

ホメオパシーが広まる背景

 ホメオパシーを選ぶのは、医薬品の使用に慎重な人たちです。ホメオパシーの宣伝文句は、「服薬を減らせる」「自然な療法」等が典型的です。

 助産師にホメオパシーが広まったのは、妊婦には薬を避ける傾向にあることが理由として大きいと考えられます。薬に頼らずになんとかしたい妊婦のニーズに応えられるので、助産師との親和性が高くなります。「K2シロップ事件」が起きた当時、日本助産師会にはK2シロップの代わりにレメディを与える行為を推奨していた助産師が理事として加わっていました。そうした中で赤ちゃんの死亡事件が起きたのです。助産師経由でホメオパシーが広まると、小さい子を持つ親がホメオパシーに傾倒していくケースも増えていきます。ホメオパシーの思想に感化された親が子どもに病院での治療を受けさせなかったり、ワクチン接種を拒否したりするようになり、「医療ネグレクト」同然となっていきます。前述のアトピー皮膚炎が悪化して亡くなった生後6か月の男児の両親も、このケースでした。

 一連の死亡事件の後、日本助産師会は平成22(2010)年8月26日に、次の声明を出しました。

『日本助産師会は、山口県で乳児がビタミンK欠乏性出血症により死亡した事例を受け、ホメオパシーのレメディはK2シロップに代わりうるものではないと警告し、全会員に対して、科学的な根拠に基づいた医療を実践するよう、8月10日に勧告を出しておりますが、一昨日出されました日本学術会議の談話を重く受けとめ、会員に対し、助産業務としてホメオパシーを使用しないよう徹底いたします。』

 私はホメオパスが実際にどんな風に「診断」をするのか知りたくて、ホメオパスによる「相談」に申し込んでみた事があります。いくつかの死亡事件を起こした団体に所属するホメオパスでしたので、やや警戒して行きましたが、おしゃれな服を着た細身のきれいな人でした。素敵な調度品で飾られた相談室の中でQuantum Xrroid-SCIOという「波動機器」の一種を使って診断が行われました。

(参考)NATROMのブログ:ホメオパシージャパンが販売する波動機器 クォンタム・ゼイロイド

 ホメオパスは、その機械のプログラムに従って私の体調について質問していき、他に日常の悩みはないか等と親身な感じで聞いてきました。私からもそのホメオパスに色々と質問してみました。どこまで本当か分かりませんが、その人の夫は大手銀行に勤めており転勤族で、お子さんがアトピー性皮膚炎になりステロイドに代わる治療法を探していて、ホメオパシーを知ったそうです。この優しい雰囲気のホメオパスに憧れて、自分もホメオパスを目指そうとする人達がいるのだろうな、と思える感じの人でした。

 私の診断結果として、いくつか(6種類くらい)の症状の兆候があると言われました。その後、私にはそれらの症状を自覚することはありませんでしたが、もしいずれかの症状が現れたら、偶然だとしても「やはり当たった!」として信じてしまう人達はいそうです。さらにホメオパスは相談者から体調や悩みを上手に聞き出すことで、ホメオパシーなら対処できると説明をします。私はホメオパスと話をするのが目的でしたので、レメディ等は買わずに帰りましたが、せっかくだからと買って試す人は多いだろうと思います。そのうちの何割かは、前述の因果関係の誤認や暗示効果によって「レメディが効いた」と錯覚して、ホメオパシーに傾倒していくことになるのでしょう。

 医師の中には、患者の気持ちを考えずに不適切な対応をしてしまう人もいます。そうした嫌な経験があれば、優しげなホメオパスが親身に相談に乗ってくれると、そちらの方に頼りたくなります。医療関係者に対する不信感も、ホメオパシーに傾倒していく原因になっていると考えられます。

 実際に薬の副作用で体調を崩したことがあったり、治療困難な病気でなかなか症状が改善しなかったり、慢性的な病気で長期間にわたり薬を服用することが不安になっている人達もいます。そういう人達にとっては、「服薬を減らせる」「自然な療法」というホメオパシーの宣伝文句はとても魅力的です。その他、ホメオパシーは「発達障害を改善する」とも宣伝されているので、発達障害の子を持つ親は「なんとかしてやりたい」という親心から、やはり試してみたくなるでしょう。

 ホメオパシー団体は、様々な不安を利用するのが巧みです。2011年の原発事故の後は、ホメオパシーで放射能対策ができると盛んに宣伝され、「福島の土」から作ったというレメディが放射能から身を守るとして売られました。社会不安が起きると、その都度「〇〇のレメディ」が新たに販売されていきます。

NATROMのブログ:福島の土のレメディが売られるわけ

1 2

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。