
『生理用品の社会史』(KADOKAWA)
日本における革命的ともいえる月経観の大変革期は、使い捨て生理用品の元祖「アンネナプキン」が発売された1960年代である。ナプキンが登場したことで、女性たちの経血処置は格段に楽になり、経血の流出が女性たちの活動を制限することが少なくなった。女性たちの月経に対する「負担感」が激減したのである。
また、アンネナプキンの斬新な広告が、それまで支配的だった「恥ずべき」「隠すべき」月経のイメージを大きく変えた。それまで口に出すことも憚(はばか)られた月経を、女性たちは「アンネ」と呼ぶようになり、やがてためらいなく「生理」と呼ぶことができるようになった。
月経を「生理」と呼ぶのはNG!? アンネナプキンの登場によって劇的に変わった月経観
「女性に定期的に訪れる出血現象をあなたは何と呼んでいますか?」というアンケート調査を行ったとしたら、月経を経験している女性も、月経のない人も、大多数の…
アンネナプキン発売以前に月経観の変革期があったとすれば、それは明治時代である。平安時代に律令制度のもとで公に「穢れ」と規定された月経が、実に1000年ぶりに「はばかり及ばず」(太政官布告)とされたのだ。
その後も、月経小屋や別火(火が穢れを媒介するという考えから、炊事や食事を別にすること)、乗舟の禁止といった月経不浄視に基づく慣習は、地域によっては戦後まで続くのだが、それでも公に廃止された意義は大きかった。
それまで経血処置に用いられていた布や紙に替わって、脱脂綿が登場したのも明治時代だった。脱脂綿は1886(明治19)年に『日本薬局方』に指定され、1891年に発生した濃尾大震災(全壊家屋14万余、死者7200人余)を機に一般に普及した。その後、経血処置に適しているということが広まり、アンネナプキンが発売される1960年代まで、生理用品として使用された。
脱脂綿による処置は“粗相”も多く、女性たちの「負担感」はさほど軽減しなかった。また、月経や生理用品は相変わらず「恥ずべき」「隠すべき」とされたため、月経観が大きく変化したとまでは言いがたい。
しかし、法的に月経不浄視が廃止され、脱脂綿と併用するために開発された月経帯の広告が婦人雑誌に載るようになった明治時代は、小さな変革期と考えてよいだろう。
そして今、月経観変革の第3次ムーブメントが起きている。その特徴は、月経に(よい意味で)関心を持ち、理解しようとする男性が増えたという点である。
昨年12月、月経不浄視が根強いインドで生理用ナプキン製造機を発明、普及させた男性が主役のインド映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が日本で劇場公開された。同作品を配給したソニー・ピクチャーズ エンタテインメントのディレクターによれば、同作品は予想外に男性の反応が良かったという。
インドに安価で衛生的な生理用品を! 月経タブー視と闘った男『パッドマン』
12月7日に劇場公開される映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』の「パッド」とは、日本で言うところの「使い捨て生理用ナプキン」のことである。使い捨…
ちなみに先月末、アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞を受賞した『ピリオド―羽ばたく女性たち―(Period. End of Sentence)』も、『パッドマン』同様、インドの根強い月経不浄視を描いている。『ピリオド』については、複数の男性アカデミー会員が「生理に関する映画は不快」という理由で投票しなかったことが話題となっている。彼らにこそ見て欲しい映画なのだが。
そして、昨年から日本の月経界のみならず一般世間に大旋風を巻き起こしているのが、月経を擬人化したキャラクター「生理ちゃん」である。ピンクの体にたらこくちびるの「生理ちゃん」を目にすれば、アカデミー会員たちの月経観にも変革が訪れるかもしれない。漫画『生理ちゃん』(KADOKAWA)の作者は小山健さん。平成の終わりに月経観変革のムーブメントに火をつけたのは、男性たちだった。
新しい時代にはどんな生理用品が登場し、月経観はどう変化していくのだろうか。
トークイベントのお知らせ
下北沢「本屋B&B」
4月6日(土)15:00~17:00
田中ひかる×ハヤカワ五味
「生理用品に革命を~ナプキン誕生のドラマ」