
「Getty Images」より
バイトテロの無意味な責任論
今年に入って「バイトテロ」ということばをメディア上で見かけることが増えた。外食チェーンやコンビニエンスストアのアルバイト職員が店内の商品や材料、什器や備品などで悪ふざけをする動画がネットに上げられ、よく話題になる。
2012年から13年頃にかけて「バカッター」と呼ばれたものと大きくは変わらないが、当時はツイッター投稿によるものが多かったためそう呼ばれたのだろう。最近のものはインスタグラムに投稿された例が目立つようで、違うことばが「発明」されたわけだ。「テロ」とはおおげさだが、似たようなものと感じる人が多いのだろうか。
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最近はこうしたことが起きるたびに、やった本人が悪いか、企業が悪いかで意見が対立し、激論が交わされる。悪い風評が広がることで株価に影響したり、店舗の売上げが下がることは十分考えられる。企業業績に影響を与えれば、民事・刑事の法的責任が生じうることはいうまでもない。
実際、2014年には、アルバイト職員がふざけて食洗機の中に入るなどしたため閉店に追い込まれるなどの損害を受けたとして、そば店の経営者側が当該職員らに損害賠償を求めて訴訟を起こした事例がある。
一方で、アルバイト職員の教育や職場の管理体制が十分でなかったなどとして、企業側の責任を指摘する声も数多くみられる。「バイトテロ」が怖ければ正職員として雇え、給料が安すぎるからこんなことが起きるのだ、もっと賃金を上げろ、もっと研修をしっかりしろ、監視カメラ設置やスマホを店舗に持ち込ませない運用など現場を改善しろ、アルバイトだけに現場を任せること自体が企業の怠慢、といったあたりが典型的な意見だろうか。より大きく、非正規雇用を拡大させている社会全体の責任を問うという主張であれば、「テロ」という呼び方もあながち的外れではないのかもしれない。
しかし、職員と企業のどちらが悪いかというのは、ほとんどの場合、およそ意味のない単なる居酒屋談義の域を出ない。アルバイト職員が損害を与えてしまった企業に対して負う責任と、企業が職場や職員を適切に管理すべき責任はまったく別であり、両立するものだからだ。どちらに責任があるかという問いなら、どちらにもそれぞれ責任がある、以外の答えはありえない。
実際には企業が当該職員を訴えたりしないケースも少なくないだろう。しかし、それはその職員に責任がないからというより、責任追及により生じるメリットとデメリットを比較したうえで、それが合理的ではないと判断したからではないか。そもそも「バイトテロ」による最大の損害は多くの場合、風評被害であり、それは職員を訴えて賠償金を取ればすべて消えてなくなるというたぐいのものではない。
というわけでタイトルの問いは実はあまり意味がないのだが、せっかくなのでもう少し考えてみる。この問題は本人と企業だけの問題ではないと思うからだ。