
コマツ公式サイトより
サッカーやバスケットボールのような球技では、敵の間隙をぬって味方に上手なパスを回して得点する。ゴールを決める選手ばかりが目立つが、アシストする選手あっての得点だ。
ビジネスモデル・イノベーションを起こす場合も、実は味方同士のパス回しが極めて重要となる。最初にアイデアを出した人、それを受けて実行した人、さらにそこに新たなアイデアを上乗せする人……。そうしたアイデアと実行のパス回しが大きなイノベーションにつながっていく。
それを体現した企業のひとつがコマツというダントツ企業だ。
言葉よりも先んじたIoTの先駆け
今ではややピークを過ぎた感があるが(かといって重要性が減ったわけではない)、IoTというバズワードがある。モノからコトへという風潮のなかで、製品の売り切りモデルに限界を感じるメーカーがIoTというバズワードにすがりたい気持ちはよくわかる。しかし、IoTありきで始めると、結局、バズワードに振り回されて終わることになりかねない。これは、人工知能やオープンイノベーションといったバズワードも同様だ。
話を戻して、IoTという言葉が普及するはるか以前からすでにIoTでビジネスモデル・イノベーションを起こしていたのが、よく知られるコマツのコムトラックスだろう。簡単に言うと、コムトラックスは建機の状態をセンサーで収集し、遠く離れた制御センターに送信するというものだ。言ってしまえばそれだけのことだが、それが大きな効果を生む。
データの流れは建機側からセンター方向だけでなく、センターから建機側へという逆の方向もある。たとえば、毎月支払われるべきローン代金が振り込まれていなければ、遠隔制御でエンジンを停止させることができる。そのほかにもさまざまな機能があり、顧客、代理店、コマツの3者にとって価値のある機能となっている。
きっかけは「顧客の困りごと」
コマツのコムトラックスは、決して「IoTを導入しよう」といった掛け声から始まったものではない。きっかけは、コマツのパワーショベルを使ったATM盗難事件が相次いだことだ。1990年代後半のことである。
窃盗団はパワーショベルを盗み、そのパワーショベルを使ってATMを盗難するという、実に大胆な犯罪を実行したのである。コマツは警察にも相談したが、社内の技術者がこの問題を解決する方法を思いついた。それは、建機にGPSと通信機能を搭載するというものだ。
パワーショベルが盗難されかかると、GPSによって移動していることがわかる。それを所有者に知らせればよい。しかも、窃盗団が無事に(?)仕事を終えたあとも、GPSと通信機能で追跡することができる。やがて「コマツの機械を盗んだら追跡される」と評判になり、いつのまにかATMの盗難事件そのものがなくなっていった。
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