コマツ「コムトラックス」の価値を高めた、パスを回しながらビジネスモデルを進化させ続ける姿勢

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社長自らが、パスを受け継ぐ

 ビジネスモデル・イノベーションを起こすには、ここで留まってはいけない。2つの理由がある。ひとつは、初期の成功は大きな成功の第一歩にすぎないからだ。もうひとつは、成功に酔っているうちに、すぐに競合が追いつき、あっという間に差別化要因とならなくなってしまうためだ。

 そこで、二の矢、三の矢を準備すればよいのだが、なかなか難しい。そこで、最初の成功を大きく育てるべく、パスを受ける別の人が重要だ。コマツの場合、その役割を演じたのが坂根正弘社長(現相談役)であった。

 まず、有料オプションであったコムトラックスを標準装備にしてしまった。IoTのカギはすべての機器からデータを収集できることだ。坂根氏はすぐにそれを実行に移したのである。

 坂根氏がコムトラックスの価値を誰よりも感じたのは、若い頃の体験に基づくものと思われる。製図が苦手だった坂根氏は、製図版の前から逃れたくて、顧客からのクレームを積極的に受けて現場に駆けつけるようにしていた。その際に困ったのが、建機がどこにあるか探しにくいことであった。GPSでどこにあるかすぐにわかれば、メンテナンス作業をする技術者にとっても助かるはずだ。コムトラックスの価値にすぐにピンと来たのだろう。

 コムトラックスは顧客にとっても大きな価値を生んだ。メンテナンスが必要な時期は建機ごとに異なる。その適切なタイミングを教えてくれる。安心だ。また、運転手が無駄な動きをしていれば、すぐにわかる。エンジンをかけたまま作業をしていないことがわかるからだ。顧客にとっても、コムトラックスの価値が経営に直結するので、建機を売るうえで強力な武器となった。競合他社の建機を使っている顧客が、新しく買い換える時にはコマツの建機にしてくれるようになった。買い換えるまで待てない顧客は、他社の建機にコムトラックスを搭載して欲しいと願い出るようになった。まさに、コムトラックス様々だ。

パス回しを止めない

 コマツが優れているのは、ここでパス回しを止めないところだ。コマツの建機が稼働する工事現場を「鳥の目」で俯瞰すると、そこには非効率な作業があることがわかる。たとえば、測量もその1つだ。そこでコマツは、ドローンを飛ばして、土地の3次元データを短時間で取得するサービスに参入した。作業時間を大幅に削減するとともに測量精度を上げたのだ。しかも、取得したデータを建機に伝えて、自動整地することができる。つまり、顧客にとっては、作業効率の向上、作業品質の向上、人件費削減と一石二鳥どころか三鳥にもなるのだ。

 さらにコマツの進化は止まらない。建機とは文字通り「建設機械」の略で、使用される業界は建設業界だ。ところが、ここで培った技術力を生かし、「農機」つまり農業という他分野に進出し始めた。土地を測量し、自動整地で極めて正確に水平に土地を整える。すると、作物が均一に育つ。そうした顧客価値を提供するのだ。

 コマツのビジネスモデルとその進化は、見事と言うほかはない。そこには「顧客の困りごとを発見して解決する」ということがいつも起点にある。発見した問題を解決するために、センサー、デジタル、データ、ドローン、自動運転など諸々の技術を自由自在に組み合わせている。その背景には、顧客の困りごとをいかに解決できるか、常に考え、パスを回していく人たちがいる。他社が学ぶのは、IoTではなくて、まさにこうした姿勢ではないだろうか。

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