スシローの一斉休業が飲食業界に与えた影響は?「働き方改革」と飲食業界の深刻な悪循環

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スシローの店舗(「Wikipedia」より/Hanasakijijii)

 回転寿司業界最大手の「スシロー」を運営するスシローグローバルホールディングスが、2019年2月5日、6日の2日間、ほぼ全店にあたる約500店で一斉休業を実施した。スシロー全体の最新年間売上高は1748億円。単純計算ではあるが、2日間休業するとなるとおよそ10億円の機会損失ということになる。かなり思い切った施策と捉えていいだろう。

 スシローは現場の従業員からの要望もあり、働きやすい職場をつくるという「働き方改革」の一環で休業に踏み切ったという。従業員からの反応は良く、懸念していた顧客からの不満も少なかったようだ。また、ニュースでも大々的に取り上げられたことで、世間には“優良企業”というポジティブな印象を与えたのではないか。

 スシローの英断に続くように、しゃぶしゃぶ店や日本料理店などを展開する「木曽路」は、ゴールデンウィーク明けの5月7日、8日に系列の全169店舗で一斉休業を実施すると発表した。また、和食レストランなどを運営する「梅の花」も、今年5月から来年4年月までに、24日間の店休日(毎月第1・第3月曜日)を設けることを発表している。

 このような飲食業界の動きは、今年4月1日から施行される「働き方改革」を意識したものであるだろう。しかし一方で、働き方関連法に盛り込まれている時間外労働の上限規制や、勤務間インターバル制度の導入などは、人手不足に悩まされる昨今の飲食業界に即したものになり得るのかという疑問も残る。

 そこで、フードアナリスト協会所属の重盛高雄氏に、スシローの一斉休業が今後の飲食業界に与える影響や、働き方改革に面した飲食業界が抱える問題点や解決策について解説してもらった。

人手不足からの激務で、ますます求人が寄りつかない負のスパイラルに…非正社員の定着率をどう上げる?

 まず、現在の飲食業界が抱えている最も深刻な問題といえば、なんといっても人手不足だろう。

「飲食業界では、働き手の不足ばかりか、業態によっては来客数の減少も問題になっていますね。ファミレス、ファストフードにはだいぶ客足が戻ってきているものの、総合居酒屋では客足減少に歯止めがかかっていないのが現状です。けれど、客が少なくて利益効率が悪くても店は開けておかなくてはならないため、飲食店は慢性的な人手不足状態に陥ってしまうのです。当然、人手不足で激務の店舗で働きたいという人は少ないでしょうし、求人をかけたところで人は集まりません。客が来なくて活気のない店では働きたくないという理由で離れる従業員もいるため、人手不足の悪循環に陥ってしまっている店も多いですね」(重盛氏)

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重盛 高雄 フードアナリスト
ファストフード、外食産業に精通したフードアナリスト。ニュース番組、雑誌などに多数出演。2017年には「The Economist」誌(英国)から、日本のファストフード業界についてのインタビューを受けるなど、活躍の場を世界に広げている。
HP http://foodanalyst-pro.com/profile/profile.php?name=shigemoritakao00017

 働き方改革関連法が4月から施行されていくが、人手不足問題を抱える飲食業界においては、どのような影響が考えられるのだろうか。

「働き方改革は、1日8時間など一定時間以上勤務の社員の定着率を上げることが主な目的になっています。たとえば物販系や事務職系の職場では、客の入りや業務の繁忙が比較的フラットですから、効果は出やすいでしょう。

しかし、飲食業界の現場となると話は別です。ランチタイムやディナータイムが混み合うので、昼や夜だけ人員を補充したいというのが企業側の求める働き方であるため、おのずとアルバイトやパートタイマー、つまり非正社員の割合が多くなっているわけです。

 そのため、飲食業界では大部分を占める非正社員の待遇やモチベーションをどこまで上げていけるか、ということが働き方改革の重要ポイントになるでしょう。他業界のように全員が常勤の従業員であったならば、残業時間の上限規制有給をちゃんと取得してもらうという働き方改革が活きてきますし、ほかにも従業員に対して在宅勤務を認めたり、勤務時間をずらしたりなどの施策で従業員の負担を減らすことができるでしょう。ですが、飲食業界はそういった施策を取り入れにくいのが実情です。

 この難しい状況下で、常勤ではない正社員以外の方にどこまで企業側が恩恵を与えることができるか。ひいては、人手不足問題にも直接的に関わってくることでしょう」(重盛氏)

 アルバイトやパートの定着率を向上させられるか否か。ここに、今後の飲食業界の未来が左右されるのかもしれない。その先駆けとなったスシローの一斉休業にも、非正社員の定着率向上のための施策という側面があったと考えられる。

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