なぜ虐待ハイリスク家庭でも児童相談所は子供を親元へ帰さざるを得ないのか

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――児童福祉司の権限は“親の圧力”よりも強いのでは。

山脇 はい、児童福祉司の権限はとっても強いです。とっても強いのでその権限を適切に使えば、2つの事件でも子供を保護することができたと思います。

本来、児相の職員は子供の親から訴えられても何の問題もないのですが、脅されたり、大声を出されたり「そもそも虐待などしてないのに、なぜしたと言うのか。名誉毀損だ」と騒がれたりすると、やっぱり人間の感情として怖くなってしまいますよね。

私も子供の親に「付きまとってやる」「人生めちゃくちゃにしてやる」などと言われ怖い思いをした経験もあるので、児童福祉司が子供を親元へ帰したくなってしまう気持ちもわからなくはないです。

また、子供が小さければ小さいほど、子供の言い分よりも親の言い分のほうがストーリーがしっかりしているので、子の主張よりも親の主張を優先し、「まぁ1回は帰してみようか」と保護を解除してしまう児童福祉司もいます。児童福祉司のスキルや経験不足も原因ですね。

――日本では、親から子への暴力を“しつけ”として容認する風潮も根強くありました。親側がそのような認識で、虐待を認めないケースも多いのではないでしょうか。

山脇 そうですね、今の30代後半から40代くらいですと当たり前のように叩かれて育てられた人もいます。実は、児童福祉司であっても、中には虐待被害を「保護するほどではない」「これくらい普通」と軽視してしまうこともあります。

また、虐待は家庭内のことですし、なかなか踏み込みにくいと感じる部分です。東京だと特にその傾向は強く、近所に虐待が疑われる子がいたとしても「通報したら逆恨みされるかもしれない」と躊躇し、なかなか通報に至らないケースもありますよね。

児童相談所の職員は公務員

山脇 構造論の話にもなるのですが、児童相談所の職員は専門家ばかりではなく、そして必ずしも児相で働くことを希望した公務員というわけではありません。子供に興味がなかったり、知識がない人でも、児相での勤務を命じられれば児童福祉司として働き、虐待の有無を判断することになります。児童福祉司は職名に過ぎず、配属後の研修はありますが、東京は3週間程度と、とても短いのが現状です。

そうなると、「虐待案件を持ちたくない」という職員もいれば、「非行や不登校の相談は受けたいが、虐待は重すぎる」という人も出てきます。

また、虐待の相談があれば原則48時間以内に安否確認をする必要があり、虐待があると確認されれば対策を取らなければいけない。必要によっては会議も開きます。それでも相談は毎日入ってくるので、どうしたって件数を持っていれば持っているほど負担は増えるし、仕事も増えます。

――とても働き方改革で「9時から5時で帰りましょう」なんて言える状況ではないですね。

山脇 なるべく早く終わらせようと、「この程度であれば虐待と認めない」とか、「虐待はあったが親に注意したので解決しました」とか、形式だけで終わらせてしまう児童福祉司も見てきました。

「玄関先で注意したのでもう大丈夫です」と言われても、普通、大丈夫だとは思えませんよね。でも、児童福祉司が判断して、「親に注意をした」と言えば、会議もそれで通ってしまう。児童福祉司は子供を保護するために大きな権限を託されているはずなのに、“案件を終わらせるため”にその力を使ってしまうケースもあるのです。

――その報告で誰も異論を申し立てないことが問題ではないですか。会議の意味が問われます。

山脇 それが通ってしまうのです。たとえば「泣き声通報」があると原則的に家庭訪問をする決まりですが、「親子揃って玄関に出てきて、子供が<大丈夫>と言っていたので大丈夫です」で、通るんです。親のいる前で「大丈夫?」と聞いたって子供は「大丈夫」と言うに決まっているのに。

やっぱり、その子供が保育園に通っているなら保育園を訪問して親がいない場所で子の話を聞くとか、児相に1回は呼んで、親子別々に話を聞くことを徹底していく必要があります。ですが、そんな丁寧な対応を求めたところで「案件が多過ぎてできません」という話になってしまうんですよね。

――物理的に無理があると。

山脇 現在、東京には児相が11箇所しかなく、それぞれの受け持つ範囲が広すぎます。家庭訪問をするにしても片道1時間以上かかってしまう場合もあります。職員の負担を軽くし、案件の数が多くても1件1件丁寧に対応するためには、各区や市に移管することですよね。地域密着型に変えていくことによって、多少の改善はできると思います。

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