
女子教育が世界を救う/畠山勝太
昨年末に開催されたG20ブエノスアイレス・サミットは、これまでと大きく異なり、男女間格差の問題が前面に出たものでした。G20での首脳宣言にある合意文の2番目(実質的にトップの項目)は以下の通りになっています。
「本年、我々は、次の柱に焦点を当てた。すなわち、仕事の未来、開発のためのインフラ、持続可能な食料の未来、そして G20 のアジェンダ全体としてジェンダーを主流化する戦略である。」
「ジェンダーを主流化する戦略」という記述を見て、G20でジェンダー問題が取り扱われたことは分かると思います。しかし、ジェンダー問題に興味・関心がある多くの読者にとっても、「ジェンダー主流化」という単語はあまり耳慣れないものではないでしょうか? そこで今回は、「ジェンダー主流化」とは何か、そしてこれを実現するためには何が必要かを紹介しようと思います。
ジェンダー主流化とは何か?
ジェンダー主流化という単語は比較的新しいもので、1995年に開催された第 4 回国連世界女性会議で広く認識されるようになりました。国連には私が勤務していたユニセフなど様々な機関が存在していますが、その一つにUN Womenというジェンダー平等と女性のエンパワメントのための機関があります(UN Womenが目指すものがジェンダー公平ではなく、ジェンダー平等だというのは興味深いですよね)。
UN Womenの関連HPではジェンダー主流化を以下のように解説しています。
「すべての政策――形成・研究・政策対話・立法・資源配分・計画・実施・モニタリング、というすべてのプロセス――において、ジェンダーの観点が中心に来て、ジェンダー平等を達成するという目標に注意が払われている」
要はジェンダー主流化とは、全ての政策の全てのプロセスでジェンダーの観点が取り込まれるべきだというものです。そして全てのプロセスの中でも、政策形成過程にジェンダーの観点が欠けていると、他のプロセスで挽回することが出来なくなるので、政策形成はジェンダー主流化を実現するために最も重要なプロセスの一つだと考えられています。
政策形成過程でジェンダー主流化を実現するためにはジェンダー分析が欠かせません。しかし、ジェンダー分析と言われても、あまり馴染みが無い言葉なので、なんのことだかさっぱりだと思います。次にジェンダー分析とは何か、一つの事例を紹介します。
ジェンダー分析の一事例―根本原因解析
国連機関は大体5年を1サイクルとする支援計画を策定して、途上国政府の支援を行っています。この支援計画を策定する際には、関係者分析やセクター分析など様々なツールが使用されますが、その中心となるツールの一つに根本原因解析(Root cause analysis)があります。
根本原因解析は、ある問題がなぜ発生したのか、その問題を発生させた原因が起こったのはなぜか、その問題を発生させた原因が起こった原因はなぜか……、なぜか……を繰り返していく分析手法です。最後に辿り着いたところにあるものを解決することで、最初の問題を解決しようというわけです。百聞は一見に如かずと言うので、日本の女子教育を具体例にしてみましょう。
日本の女子教育を具体例にした簡単な(これ以上原因の数や階層を増やすとスライドが見づらくなるので)根本原因解析の図は上のようになります。
教育における男女平等が達成されない原因として、職場・学校・家庭・政策の4つを要因として考えています(2段目)。そしてそこからさらに、なぜそれぞれの要因が女子教育に負の影響を与えてしまっているのかを考えています(3段目)。
そして、上の図で示したように、それぞれの根本原因に取り組むようなプロジェクト・政策を実施することで、教育における男女平等の実現を阻害している要因が取り除かれ、教育における男女平等が実現するというわけです。
このように、ジェンダー分析とは、根本原因解析などを使って、なぜ、そしてどのようにジェンダーがある政策課題に関連してくるのかを分析したものだと言えます。
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