アカデミー賞『グリーンブック』は “白人の救世主” 映画なのか

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マジカル・ニグロ

 ハリウッド映画におけるマジカル・ニグロとは、白人の主役を幸せにするため(だけ)に作られた黒人キャラクターを指す。魔法のように登場し、魔法のように白人を幸せにし、魔法のように消えるという皮肉を込めた言葉だ。黒人映画監督のスパイク・リーが考案したとされる。

  モーガン・フリーマンは昨年、複数の女性から性的ハラスメントを糾弾されて一線から姿を消したが、その演技力と圧倒的な存在感は誰もが認める名優だ。現実世界に黒人大統領が誕生するはるか以前に黒人大統領の役まで演じている

 だが、代表作のひとつ『ショーシャンクの空の下でThe Shawshank Redemption』(1994)での黒人受刑者の役がマジカル・ネグロの典型だと言われている。終身刑となった白人銀行家の辛く惨めな刑務所暮らしを助ける役だ。

 黒人俳優モーガン・フリーマンは圧倒的な存在感を持つ名優だ。 その存在感ゆえに「神」や、 現実世界に黒人大統領が誕生する以前から「黒人大統領」 の役まで演じているが、それらがマジカル・ ニグロだと言われている。

 いずれも黒人である必然性のない役であり、かつ主役を助ける役回りだ。フリーマンが抜擢されたのは人種ではなく、「演技力、存在感、人気」が理由なのか、もしくは「作品に彩りを添えるスパイスとして黒人が望まれた」のか、はたまた「多様性が求められる時代となり、重要な脇役に黒人を配する必要があった」のか。マジカル・ニグロの認定は難しい。

 だが、時にはあっけにとられるほどのマジカル・ニグロ・キャラクターに遭遇する。

 『バガー・ヴァンスの伝説 The Legend of Bagger Vance』(2000)は、マット・デイモン演じる天才ゴルファーを助けるキャディーをウィル・スミスが演じている。日本未公開の『Mr. Church』(2015)では、エディ・マーフィーが白人母子家庭の料理人となり、娘が子供時代を経て若い女性に成長したのちまで精神的にも支え続ける物語だ。

 どちらも「心温まる」作品ではあるが、黒人キャラクターはどこからともなく現れ、主役をあらゆる面で支援し、人生を取り戻させる。そして “任務” 終了後は、いずこかへ消えていくのである。まさに魔法のように現れ、魔法のように消えていく。リアリティはまるでない。

 『グリーンブック』の黒人天才ピアニスト、ドクター・シャーリーすら、マジカル・ニグロだと言う声がある。ドクター・シャーリーは黒人差別が激しい南部のツアーでは身の危険もあると知っており、運転手に白人で腕っ節の強いトニーを雇う。予想どおり、道中何度も白人に襲われ、そのたびにトニーに助けられる。だが、黒人差別主義者だったトニーはドクター・シャーリーとの交流を通じて偏見を捨て、心を開く。つまり、最終的に人間として救われたのはトニーなのである。

 また、当時の南部では黒人は白人と同じレストランやホテルはおろか、トイレも使えず、劇中では描かれていないが黒人へのリンチや殺害も頻繁に起きていた。ところが上流階級の白人たちはタキシードに身を包んだ才能と教養あるドクター・シャーリーを招き、その演奏を絶賛する。白人たちはマジカル・ニグロとしてのドクター・シャーリーを楽しんでいたと言える。

アメリカの人種問題の根の深さ

 繰り返すが、白人救世主映画と呼ばれる作品にも映画作品として良質なものはたくさんある。マジカル・ニグロと呼ばれるキャラクターも同様に、その多くはとても魅力的だ。それらがすなわち「あってはならない作品/キャラクター」ではない。

 問題は、それらが白人(=マジョリティ)製作者によって作られており、作り手にはその偏りが見えていないことだ。アメリカでは映画はもっとも浸透した娯楽のひとつであり、多くの人が子供の頃から大量の映画を観続ける。何本も何本も映画を見続けてきた黒人観客が「また、このパターン?」と気付き、ため息をつくのだ。ちなみに「アクションやホラー映画で最初に死ぬのは黒人キャラ、それも15分以内に」と言う定番ジョークもある。

 アメリカにおける人種問題の在り方を直接みる機会のない日本では、白人救世主映画、マジカル・ニグロ、共に分かりづらいかもしれない。だが、そうした声もあることを知った上でアメリカ映画を観ると、アメリカのリアリティが垣間見えるかもしれない。

 また、こうしたハリウッドの歴史があるからこそ、昨年『ブラックパンサー』と『クレイジー・リッチ!(エイジアン)』があれほどまでに喝采を浴びたのだ。

 なお、『グリーンブック』には黒人への差別語だけでなく、アジア系、ユダヤ系、そして白人の中では低位に置かれていたイタリア系への侮蔑語も多数登場する。それぞれが日本語字幕でなんと訳されているのか確かめてはいないが、これもまたアメリカの人種問題の表われなのである。
(堂本かおる)

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