
ヨシタケシンスケさん
『りんごかもしれない』や『もうぬげない』など、めまぐるしく展開する発想に、子どもから大人まで虜にする人気絵本作家、ヨシタケシンスケ氏。普段から手帳に描いているスケッチと、それについての解説をつづったエッセイ集『思わず考えちゃう』(新潮社)では、ヨシタケ氏の発想の源が垣間見える。
劇的なことはない。だけど不思議と笑えてくるし、癒されるし、唸らされる。それは一体、なぜなのか? 「綺麗事が嫌い」「人に怒られたくない」と公言して憚らない(ゆえに全力共感を呼ぶ)ヨシタケ氏の、“頭の中”を紐解く。

ヨシタケシンスケ
1973年神奈川県生まれ。絵本デビュー作『りんごかもしれない』(ブロンズ新社)で第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、『りゆうがあります』(PHP研究所)で第8回同賞第1位、『もうぬげない』(ブロンズ新社)で第9回同賞第1位、『なつみはなんにでもなれる』(PHP研究所)で第10回同賞第1位、「おしっこちょっぴりもれたろう」(PHP研究所)で第11回同賞第1位受賞の5冠に輝く。
僕らは世界にひとつだけの石ころみたいなもの
――今日、起床してからインタビューするまでの間、スケッチしましたか?
ヨシタケ:はい。これですね(手帳に描かれたイラストを差し出しながら)。
――人々を前にした校長先生のような男性が、「みなさんは、ひとりひとり違う、世界にひとつだけなのです。例えて言うなら、線路の下の石ころです」とスピーチしているイラストですね。
ヨシタケ:ここまで電車で来ましたが、ホーム下の線路に敷かれた石を見て、「全部、形が違うなあ。みんな個性豊かで、世界にひとつだけの石だなあ」と思って、電車を待つ間にスケッチしました。
どんな人間も世界にひとりだけしかいませんが、「それは石ころと同じだよね。ただ、それだけのこと」ということが言いたいんです。「あなたは世界にひとりだけしかいないの。だからすごいのよ」とは言いたくないんです。「世界にひとりだけ」を、美談にしたくないんですよね。
――ひとつしかないから「すごい」かと言えば、そうではないと。
ヨシタケ:こうした考えは、アイデンティティについて考える絵本『ぼくのニセモノをつくるには』でも描きました。「ぼくはひとりしかいない。けど、ぼくみたいな人はいっぱいいる」「ぼくみたいな人がいっぱいいるからこそ、ぼくはその中に埋もれている」ということも、ちゃんと言いたいんですよね。
――「世界にひとりだけだから、あなたはすごい」と言うのは、根拠がなく腑に落ちないですしね。
ヨシタケ:そうそう。乱暴な言い方。「世界にひとりしかいない」が、「=勝ち」になるはずないじゃないですか。そうではなくて、その「ひとりしかいない自分」をどう使うかが重要なんじゃないのか? と。「世界にひとりだけ=すごい」がわからないから、みんな悩んでいるんだし。……と、こういったことを、どうにかこうにか笑いに変えられないかなと、日々考えています。