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その露出には意味がある~『シャーロック』と『アメリカン・ハッスル』に見る女性の体の表現

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シドニーの脇乳~『アメリカン・ハッスル』

 2013年の映画『アメリカン・ハッスル』では、女優陣のドレスが話題になりました。この映画ではシドニー(エイミー・アダムズ)とロザリン(ジェニファー・ローレンス)という2人の女性がメインキャストとして登場します。デザイナーのマイケル・ウィルキンソンは、舞台である70年代の流行にあわせて、非常に露出度が高くてきらびやかなドレスをデザインしています。

 ロザリンのドレスも美しいのですが、演技派で比較的地味な役も多かったエイミー・アダムズが、いつもとはひと味違うセクシーな凄腕詐欺師を演じるということもあり、公開時の報道では、シドニーが着るドレスの露出度が注目されました

やはりここで見過ごしてしまいがちなのは、シドニーはなんでこんなにセクシーなドレスを着ているのか、ということです。映画の衣装はキャラクターを表現するものです。着ているものがどう登場人物の性格や行動と結びつくのかを考えることで、より楽しく映画を見ることができます。

この映画は1970年代末に起こった政治スキャンダルであるアブスキャム事件に基づいており、FBIが詐欺師たちを動員して政治家に対するおとり捜査を行うという内容です。70年代の女性ファッションはディスコ文化の影響もあり、グラマラスで露出度も高いゴージャスな服装が流行していました。とくに首の周りに布をまわすホルターネックは人気がありましたが、これは袖ぐり部分も襟ぐり部分もかなり露出度を高くできる衣装です。シドニーの衣装はホルストンやサン=ローランなどの70年代に流行ったドレスを参考にしており、その点の時代考証はしっかりしています。

 デザイナーのウィルキンソンは、シドニーの衣装について「最高の自信と儚い傷つきやすさ」の間を揺れ動きながら危険な行為に手を染めるキャラクターを表現するため、わざと体にへばりつくようなスタイルにしたと述べています。シドニーは貧しく、頭のキレを使って生き延びてきた女性で、とても野心的で別の自分になりたいと願っています。詐欺を行う際、シドニーは英国貴族のレディ・イーディスという偽名を使っています。このリッチでゴージャスな特権階級のお姫様は、おそらくシドニーの憧れの実現のような自信と美に満ちた女性です。大役を演じるためにはそれにふさわしい衣装が必要なのです。

シドニーは中盤、仕事上重要なヤマとなるイベントに出席する際、脇乳と谷間が見えるシークィンのホルタードレスを着ています。この脇乳ドレスは映画のスチールにも使われました。ここでシドニーは恋人で詐欺のパートナーであるアーヴィン(クリスチャン・ベール)の妻ロザリンとも対決するハメになります。詐欺稼業は頭を使って切り抜ける自信があるシドニーも、恋愛についてはトラブルまみれです。キラキラしているのに布が少ないこのドレスは、そうしたシドニーの力と悩みの両方を象徴します。

 そしてシドニーがやたら露出度の高いドレスを着ているのは、そのほうが詐欺師として男性を騙しやすいから、という単純な理由もあります。この映画を見ていると、たぶん性別や性的指向にかかわらず、観客はついついシドニーの胸元に目が行って、あまり話の内容が頭に入らないというようなことになりがちです(YouTubeにあるウィルキンソンの衣装解説ビデオにも、シドニーの服しか覚えていないというようなコメントがついています)。シドニーはまさにそういう効果を狙って谷間や脇乳を出しているのです。『シャーロック』のアイリーンもそうでしたが、ヘテロセクシュアルの男性はオッパイに気をとられやすいものです。シドニーのドレスは、詐欺師として男社会に食い込み、人々を幻惑するための戦闘服なのです。

 こういうふうに、よくできた映画やテレビにおいては、ヌードや露出は単なるファンサービスではなく、展開やキャラクター造形に貢献する大事な要素になることがあります。オッパイや筋肉に幻惑されていては、作品に深く切り込んでいくのが難しくなります。その露出にはどういうプロット上の機能や象徴的な意味合いがあるのか、ということを常に念頭に置いて作品を見たほうが、ずっと楽しくなります。

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