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熟成肉の次は「熟成魚」! 食材腐らずに旨み増進する「エイジングシート」開発秘話

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「旬熟成HAKKO」の熟成魚メニュー

 日本のグルメ市場に「熟成肉」ブームが登場したのは2014年頃。はや5年が経つが、「熟成肉」は一過性のブームとして終わらず、今もグルメ通の支持を集め続けているようだ。“エイジングビーフ”などと謳った焼肉店を街で見かけたことがある人はもちろん、実際に食べたことがある人も少なくないだろう。

 しかし今、熟成肉ならぬ「熟成魚」まで登場していることをご存知だろうか。

 「熟成魚」とは、明治大学農学部とベンチャー企業のミートエポック社が共同で開発し、昨年11月に商品化した「エイジングシート」を利用したものだ。この「エイジングシート(布)」を食材に巻きつけることで熟成を効率的に進められるため、熟成肉のメカニズムが、なんと足の早い魚にも応用できるようになったのだという。

 神奈川県の川崎北部市場水産仲卸協同組合は、「発酵熟成熟鮮魚」というブランド名の熟成魚の販売に乗り出した。エイジングシートに包まれて3週間ほど寝かされた魚は、腐っているどころかむしろフレッシュで、旨みたっぷり。魚臭さはなく、ミルクやナッツのような香りがするという。

 「熟成魚」やエイジングシートは、いったいどういう仕組みなのか。その開発秘話を含め、ミートエポック社代表の跡部美樹雄氏に解説してもらった。

「熟成肉」に「熟成魚」まで…いまや“熟成界”に欠かせない「エイジングシート」開発秘話

 食材を保冷庫の中で寝かせて熟成させると、菌によってタンパク質が分解され、旨味成分であるアミノ酸が増加する――こうした“熟成”の奥深さに惹かれて、エイジングシートの開発にまで至ったという跡部氏。もともとは料理人で、2012年からは熟成肉をメインに据えたレストラン「旬熟成」(六本木と銀座に計3店舗)の経営に着手しているが、ここまで“熟成”に魅入られたきっかけとは何だったのか。

「あるとき、たまたま熟成肉というものが存在することを知った私は、試しに取り扱っているお店を食べ歩きしてみたんです。最初は『あぁ、こんな感じか』という程度の印象しかなかったのですが、熟成肉の先駆者的なお店である『中勢以』(東京・田園調布)のメニューを口にした瞬間、『こんなウマいものが世の中にあったんだ!』と衝撃が走ったのです。それなら自分でも熟成肉を作ってみようと思い立ち、専門店をオープンするに至りました。

 店を経営するなかで、お客様に熟成肉を『おいしい』という実体験として味わっていただくことに加え、そのおいしさを数値化して伝えられないかと考えるようになりました。そこで肉の柔らかさや旨みを追求するため力を貸してくれる人はいないか探したところ、微生物の専門家である、明治大学農学部の村上周一郎先生と出会ったのです。

 しかし村上先生は、私が作っていた熟成肉を見て『これは危ない』と指摘したのです。先生いわく『この肉には、あまり人間が摂取するべきではない菌も一緒についている』とのことでした」(跡部氏)

 村上先生の衝撃的なひと言により、跡部氏は熟成肉を危険視してしまうようになるも、この出来事こそがエイジングシート開発への第一歩だったという。

「食中毒などの事故が起きず、なおかつ誰でも簡単に再現できるような形で肉を熟成させられないものかと村上先生に相談し、結果、考案されたのがエイジングシートの仕組みでした。

 従来の熟成方法では空気中に自然浮遊している菌を使っていましたが、菌が肉に付着するまでの期間は不明でした。つまり、自然に熟成されるのを待っていたわけです。しかし、これでは熟成に適した『ヘリコスチラム菌』だけでなく、悪い菌がついてしまう恐れもありますし、毎回同じように菌づけできるとも限りませんでした。

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 しかしヘリコスチラム菌だけをエイジングシートにつけておけば、そのまま肉に直接巻くことも可能になります。つまり均等な量のヘリコスチラム菌をいつでも付着させられること。エイジングシートのおかげで熟成の再現性は高まりましたし、肉を寝かせる時間も、従来の半分ほどまで短縮できました。

 しかも、ヘリコスチラム菌を先につけてしまえば、他の悪い菌が入ってくる余地をなくすことができ、肉が腐りづらくなるというメリットもあります。考え方としては、肉を味噌漬けにするのと一緒だといえるでしょう。味噌漬けの場合は、麹菌が肉の腐敗を防いでくれますからね」(跡部氏)

 こうして、2014年の着手から試行錯誤を重ねていったエイジングシートの開発は、約2年後の2016年に成功する。しかし当初は意外にも、世の中からのニーズを感じられなかったらしい。

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