セクシズムに満ちた美術界の構造を破壊する。津田大介があいちトリエンナーレ2019芸術監督をやる理由

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セクシズムまみれの業界だから性暴力も蔓延する

――実は今回、現代美術家として活動する20~30代の女性、および美大を卒業したけれども全然違う職に就いた女性たち複数名から、美術界のジェンダー差別に関する話を集めてきました。

■Aさん/東京藝大卒
不平等とか差別はメシの種みたいな環境のせいか、当時はあんまり気にしていなかったけれど、そういえば女性の教員はいなかった。飲みニュケーションはすごく多く、お酌は普通のこと。先生の制作に関わる時に、体力勝負の現場だとやっぱり男子学生のほうが重宝される。大学院進学には、先生との太いパイプをいかに作るかが重要なので、先生の制作を手伝うことは必須。ちなみに私は奇抜な不思議ちゃんというより普通のギャルっぽい見た目だったせいか、教授からは「ギャルなのになんで真面目に絵を描こうとしてるの?」とよく馬鹿にされていた。

津田「医大入試と同じで、男性のほうが体力あるからいい、女性は非力で生理があるから……、とか言われる構造もあるんですね。

一番の問題はたぶん、男性教員なんですよ。ギャラリーも含めてですが、男性の力を借りてしか世の中に出ることができないっていう構造があるんです。さらに言えば、その圧倒的男性優位社会で出世している女性たちも、“名誉男性”的なメンタリティーにならざるを得ない部分がある。男性的な価値観が内面化されている人もいますね。

ギャル云々なんて単なるルッキズムですからね、それ『金髪なのに芸術監督できるの?』っていうのと同じでしょ。金髪関係ないだろって話で、教授側がそのヤバさに気づいてないくらいの強い権力を持っているという構造があるわけですね」

――もうひとつ、いいですか。

■Bさん/東京藝大卒
日本の美術界っていうのが芸大、多摩美の一部教授を筆頭としたアカデミックなピラミッドどほぼイコールっていう状態がずっと続いてて、その中の知り合い同士で互いに誉めあうヌルヌルとしたclosedな世界。その構図が変わらない限りはジェンダーの平等ってあり得ない。だから、日本の美術市場は小さいまま。

津田「僕もまったく同感ですね。だからそれを壊さなきゃいけないと思いました。それを壊すのは外から来た人間ですよ。僕、トリエンナーレが終わったら、元のジャーナリズムの世界に戻れるので、美術界におけるしがらみがないですもんね」

――しがらみ……美術界の内側からの反発ということですよね。

津田「芸術監督としてあれこれやっていく中で、すごくいろいろ嫌な思いもしているんですよ。こんなことをやるなって直接も言われるし、間接的にも言われるし。まあでもだったら徹底的にやってやるよって感じですよね」

――今回のあいちトリエンナーレ2019を経て、男性は変わるのでしょうか。構造を支配している、上の層の男性たちは。

津田「男性はそう簡単には変わらないでしょう。ただ、僕は男性の意識を変えるより、まずは形式的であっても実績ベースでパブリックセクターに流れを呼び込みたいなと思っています。あいちトリエンナーレは、日本最大級の公金を使った芸術祭です。地方自治体が文化事業としてやるもの。今回のトリエンナーレがジェンダー平等で話題になったうえで成功したとなれば、追随する動きは当然、出てきますよね。なぜなら、男女共同参画は政府はじめすべての行政において重要課題でありつつも、達成できていない課題だからです。

公金を使ってあいちトリエンナーレはジェンダー平等を達成してますけど、おたくの芸術祭は達成目指さないんですか? 男女平等の世の中、公金を使っているのにそれは……って空気が生まれるといいなと思います」

――質を低下させることなくできますからね。

津田「そう、そもそも国際芸術祭は作家をたくさん呼ぶわけですから、男女平等にしたところで、芸術の多様性は失われませんよ。別に私営の展覧会やグループ展なら自分たちでコンセプト決めて好きにすればいいと思いますが。公的な芸術祭こそが、今まで不当にチャンスを奪われていた女性をフックアップしていかなければならない」

――他方で、女性作家が淘汰される過程に、アート業界の深刻なセクハラ問題もあると思います。これもいくつか紹介させてください。

■Cさん/女子美卒
ある美術評論家と夜ゴハンを二人で食べながら打ち合わせすることになり、店を出たら手をにぎられた。え? と思い戸惑うと、「アーティストなんだからこれくらいしなきゃ(恋愛豊富じゃなきゃ)」と言われた。
後日、そのことを共通の友人の女性アーティストに言ったら、その子は「え?何が嫌だったの?」という反応だった。
大学時代、男性教授と作品性について話し合う中で「そんなこと言うなら脱げないと説得力ないぞ。そこまでの覚悟も持ってないで、そんな事言うのか?」と言ってきて、つい私もそれを疑わず言われるがままにヌード写真作品を提出してしまった。今、考えれば無視しとけばよかったのに、あのときは教授の言うことは真実だと思っていたから。
それ以外にも大学生のときにはアングラ系の写真撮るおじさんに、自分の制作の写真を撮ってもらうことになり撮影中に無理矢理キスされた。嫌がると、「ただで撮ってもらって何もないなんてないだろ」と怒られた。
ちなみに、アートイベントでは制作テーマなどを聞かれて何かにつけ論破してくるおじさんがよくいる。

■Dさん/専門学校卒
作品に興味があると言って近付いてくる男性が最初から全部下心だったという経験ばかり。
今後の作品づくりの話がしたい、一緒にイベントをやりたい、等と食事に誘われると、100%「付き合って欲しい」と言われる。全然仕事の話にならない。有名漫画家や人気イラストレーターもそんな調子。大人数の飲み会なら大丈夫かと思いきや、あわや乱交状態になる。彼らは性的な目的以外で女性と接触しないのだろうか。
男性カメラマンの撮影モデルに応じたら襲われた経験もあるが、怖くて泣き寝入りしてしまった。

津田「ヤバいですね、性暴力の温床。実際、僕の耳にもそういったアート界におけるセクハラ、性暴力の話は届きます。なんとかしてくれって。女性作家が個展を開くと、おっさん客がストーカー化する……という事案は、ほぼすべての女性作家が経験しているんじゃないでしょうか。しかも、その歪で一方的な関係がね、女性作家とコレクター、女性作家とギャラリーオーナー、女性作家と教授……という、すべての関係性において生じている。これって『構造』の問題ですよね」

――どれも、女性作家のほうが立場が低い関係性ですよね。男女関係ではなく上下関係。作品を買ってあげる、賞を獲らせてあげる、指導してあげる、等々の権力をちらつかされ、従ってしまう女性作家もいるでしょう。

津田「いくら作品を買ってもらったからって、自分の魂は売りませんよね? でも、あの人たち、買えると思ってるんですよ。愚かですよねぇ……。

しかもね、女性がひとりで、結婚や出産という“女性としての幸せ”をゲットしながら、作品もずっと作っていくんだったら、資産家の人を見つけて結婚すればいいよ、となるんです。短期的には成功戦略かもしれないけど、だけどそれ、旦那に捨てられたらどうするのって話じゃないですか」

――パトロンもそうですね。

津田「結局、女性が自分で食っていける仕組みを作らなきゃいけないということに落ち着く。今回のジェンダー平等達成は、小さな一歩です。でも小さな一歩だけど、これを達成することで女性作家が生きやすい環境が整備されていけば。美術界はこのことに、真剣に向き合わなければならなくなる。もちろん我々の所属するマスコミ、メディアも同様の問題を抱えているのでこのことと今以上に真剣に向き合わなければいけないでしょう」

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