近年、1000円も出せばべろべろになるまで酔える“せんべろ居酒屋”がブームになっており、その代表格は東京と神奈川に約50店舗を構えている「立呑み晩杯屋」(以下、晩杯屋)だろう。読み方は「ばんぱいや」である。
もっとも、筆者自身はつい先日“晩杯屋デビュー”を果たしたばかりなのだが、「煮込み」(130円、税込/以下同)を筆頭に「マカロニサラダ」(130円)や「かつおのたたき」(200円)、「極厚ハムカツ」(310円)などなど、激安おつまみがずらりと並ぶメニュー表を実際に見たときは、噂には聞いていても圧倒されたものだ。そのうえ“安かろう、悪かろう”には陥っておらず、味も量も及第点を超えていたのである。
筆者を含む3人グループで「生ビール」(410円)や「がぶ飲みシードル」(290円)といったドリンクを1杯ずつ飲み、6品のおつまみを頼んでも、会計はたったの2000円弱。一人当たり700円を切ってしまい、さすがに驚いた。この日は飲み会の1軒目どころか0軒目という感覚で利用し、30分そこそこで移動してしまったものの、“立呑み”とはいえど店内にイヤな慌しさや窮屈感はなかった。長居しようと思えば、それこそべろべろになるまで飲み続けられたかもしれない。
いったいなぜ、晩杯屋はこんなご奉仕価格で商売できるのだろうか。運営元であるアクティブソース社の人事総務部・鈴木悠理氏に、晩杯屋の創業から現在に至るまでのストーリーを聞いた。
激安価格の秘訣はズバリ、仲買人との信頼構築にあり!
2009年に「晩杯屋」1号店をオープンして以降、着々と店舗数を増やしてのんべえたちの憩いの場となっていったわけだが、その誕生には創業者・金子源氏の酒への思いがあったという。
「金子は晩杯屋を始める前、自衛隊に勤務していた時期があり、仕事のあとや休日は飲みに行く機会が多かったそうです。その際、一人でも気軽に入れるような居酒屋が世の中には少ないと感じたようでして、『それならば自分で実現化してしまおう』ということで開業したのが、『晩杯屋』の成り立ちですね。
のちに金子は、せんべろの名店として知られる東京・赤羽の『立ち飲み いこい』で修行しているのですが、はじめからせんべろの立呑み屋を目指していたかというと、やや語弊があるかもしれません。
ただ、晩杯屋がお客様に商品を低価格で提供しているのは事実ですし、そこには仲買人との信頼関係がございます。独立しようと決め、自衛隊を退職した金子が最初に入社したのは、焼肉チェーンの『牛角』などを手がけるレインズインターナショナルでした。そこで金子は、『いい店を作るためには仕入れのノウハウを知らなければいけない』と気づき、野菜の取り引きが盛んな大田市場(東京都大田区)などで実際に働きながら、市場のメカニズムを学んでいったのです。
市場には全国から多種多様な食材が集まるわけですが、例えばとある店に200箱分の食材が入荷したとしたら、100箱はすでに売り先が決まっており、その時点で店の利益はしっかり確保されています。しかし、残りの100箱は放っておくとただの廃棄になってしまう可能性が高いため、晩杯屋ではそれらをノークレームで購入。あくまでも『食材を分けてもらう』というスタンスでいるからこそ、他社よりも安価な形で食材を仕入れることができ、そのようにして晩杯屋はスタートしました」(鈴木氏)
晩杯屋の1号店が出店したのは2009年8月、場所は東京・武蔵小山。当時の反響はどうだったのか。
「もともと金子は武蔵小山で別のバーを運営していたのですが、ここに晩杯屋をオープンしたのは、たまたま近くの物件が空いたからです。4坪という本当に小さな店舗だったものの、当初から地域のみなさまに愛していただき、売り上げは予想よりも順調に推移していきました。
そして2012年3月には、大井町に2号店を出すことになります。もちろん1号店での手ごたえもありましたし、従業員を雇っている以上は、店舗を少しずつ増やしていかないと給料も上げられませんからね。