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日本語がわからないから教室で座っているだけ――おざなりにされてきた海外ルーツの子どもたちへの学習支援

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「Getty Images」より

 「海外にルーツを持つ子ども」という言葉を聞いた事があるでしょうか? 海外にルーツを持つ子どもとは、「外国にルーツを持つ子ども」「外国につながる子ども」などとも呼ばれ、国籍に関わらず両親または親のどちらか一方が外国出身者である子どもたちのことをあらわす呼び方です。外国籍の子どもたちはもちろん、いわゆる“ハーフ”や“ダブル”と呼ばれる日本にルーツを持つ子ども、難民2世等の無国籍状態の子どもたちも含まれ、生育歴、宗教、文化、母語や日本語力など多様な背景を持っています。

 近年、こうした海外ルーツの子どもたちの内、日本語がわからず学校の勉強が理解できなかったり、友達を作ることも難しい状況にある子どもたちの増加が課題となっています。

 文部科学省が2年に1度調査を行っている「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」によると、平成28年の時点で、日本の公立小、中、高、中等教育学校、特別支援学校に在籍していて、「日本語指導が必要な」状況にある子どもたちは外国籍、日本国籍の子どもを合わせて約44,000人に上ります。10年前と比較すると、1.6倍に増加しており、今後も増え続ける事が予想されています。

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 海外にルーツを持つ子どもが多く在籍し、全校児童の半数近くを占めるといった多様性の高い小学校などで、日本語学級などで支援を受けながら学ぶ子どもたちの様子がメディアに取り上げられることがありますが、このような学校は一部の地域に限られています。日本語指導が必要な子どもが在籍する小中学校の内、約60%は「1つの学校にそうした子どもが1人または2人しかいない」状況で、文科省の同調査によると、日本語指導が必要な児童生徒の内、10,000人以上が学校で何の支援も受けていないことが明らかとなっています。

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 これまで日本語がわからない子どもたちの支援は、自治体や地域のボランティアに一任(丸投げ)されてきたと言っても過言ではありません。

 多様性の高い学校に偶然通う事ができた子どもたちは、日本語学級や国際学級などで日本語を学びながら、学校生活に適応するためのサポートを受ける事ができます。こうした学校のある地域では、学校の外側でもNPOやボランティア団体などが積極的に活動している場合があり、地域全体で支援体制を整備しています。

 一方で、そうでない地域に暮らす子どもたちは学校でほとんど支援がなく、「放置」となってしまうケースも珍しくありません。自治体がごくわずかしかいない日本語がわからない子どもへの支援人材や予算を確保する事が難しく、学校の先生も、日本人の子どもたちが大半を占めるクラスの中でどのように支援したらよいかわからないためです。また、学校の外側でも支援機会がないことも少なくなく、自治体間、地域間による支援の質と量、支援の有無に大きな格差があることが課題となっています。

教室でただ座っているだけの日々―「子どもだから日本語はすぐ覚えられる」の嘘

 A君は中学校1年生で中国から来日し、ある自治体の公立中学校に転入しました。その中学校には日本語を母語としない生徒に対する支援は何も行われておらず、A君は教室の中でただただ座っているだけの時間を過ごしてきました。A君は中学3年生になった時、知人の紹介で筆者が運営する支援の場にやってきましたが、その時点でA君が話す事ができた日本語は「おはよう」や「ありがとう」と言った簡単な言葉だけ。ひらがなやカタカナの読み書きもままなりませんでした。

 「日本語の音のシャワーを浴びていれば、すぐに上達する」という不正確な認識も根強く、日本語がわからない子どもへの支援の必要性が理解されないことも少なくありません。しかし、外国語を耳で聞いているだけで習得できる年齢には限りがあり、おおむね十歳を過ぎて以降は第2言語として専門家による体系的な文法等の学習を必要とする事がわかっています。それでも、日常会話(生活言語)を習得するまで約2年間、学校の勉強などに使う日本語(学習言語)を習得するまでにはさらに、7年ほどかかると言われます。

 例えば小学校5年生で来日した子どもの場合、日常会話がスムーズにできるようになった時点ですでに中学1年生となっており、勉強を十分に理解できないまま高校入試を迎えることになります。ある程度の年齢以降は、「放っておくだけでは(外国語である)日本語は上達しない」という事実は意外と知られておらず、多くの海外にルーツを持つ子どもたちがA君のように、ただただ教室で座っているだけの孤独な日々を過ごしていると考えられます。

 その後専門家による支援を受けたA君は、半年程度で日本語の日常会話がある程度できるようになり、見違えるように表情が明るくなりました。前向きに努力を続け、定時制高校を卒業したのち、専門学校で学びながら将来の目標に向かって歩んでいます。

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