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聴覚障がい者は推計1000万人以上、まだまだ必要なバリアフリーとは?

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「Getty Images」より

 4月1日の新元号発表では、掲げられた『令和』に手話通訳士のワイプが重なる”手話かぶり”が話題を呼んだ。「感動した」「時代が変わった」などおおむね好意的な声が多かった一方で、「邪魔」「文字が見えなかった」との非難もネット上ではちらほら見られた。

 政府が記者会見で手話通訳を導入したのは、2011年3月、東日本大震災以降である。駅では行先を知らせる電光掲示板が増え、商業施設の入り口やエレベーターには案内板の掲示が当たり前になるなど、聴覚障がい者向けバリアフリーの整備は着実に進んできた感がある。それでも、電車の緊急停止や災害などの非常事態になるといまの設備では機能しない、との指摘もある。

 耳が聞こえない、音が聞き取りにくい状況ではどんなリスクが生まれるか。健聴者はどれくらいその世界を想像できているだろうか?

 たとえば、作業の音がけたたましい工事現場の脇を歩くとする。その時、上から物が落ちてきて、「危ない!」と声をかけられても、気づかずそのまま通る危険性が高い。また、災害時にマスコミのヘリが上空を飛び交い、その騒音でかけ声がかき消されれば、避難の妨げになるだろう。つまり、音が聞こえない、聞き取りにくい状況では、危険を回避する行動が大変難しくなってしまうのだ。

 耳が不自由な人たちは、電車の遅れ・緊急停止が起こるたびに、そのような不安定な状況に立たされる。鉄道会社や公共施設の関係者に限らず、一般の健聴者にもそのことを踏まえた配慮が求められるだろう。

耳が不自由な人たちがもっとも苦労する「駅の利用」

 障害者手帳を所持する聴覚障がい者の数は、約24万2200人(平成23年度厚生労働省『生活のしづらさに関する調査』)。手帳の交付を受けていない聴覚障がい者も含めると、その数は少なくとも1000万人以上といわれる。日本人の約8%が耳に何らかの障害を抱えていることになる。

 昨今では、「聴覚情報処理障害」(APD)も認知されるようになった。聴力には問題ないが音の認識力が不足する症状で、脳の部分的な障害が原因といわれる。周りに人が多い状況や雑音が入り混じる時の聞き取りに困難が伴うことから、災害時の避難や電車の遅延で混雑する状況ではとくに周囲のサポートが欠かせない。

 聴覚障がい者が最も不便を感じるのが、公共交通機関を利用する時といわれる。彼らにとって情報のよりどころとなる電光掲示板の設置は、大きな駅では進んでいるが地方へ行くとまだ足りない現状がある。文字情報を伝える電光掲示板や電子モニターは車内設置も進んでいるが、電車の遅れや緊急停止を知らせる情報までは表示されない。駅員によるアナウンス放送が流れても、聴覚障がい者には何が起きているのか分からない状況だ。電車の遅延理由、待たされる時間、振り替え輸送で乗り換えるホームなどの情報が伝わらない限り、どう動けばよいか判断できない困難がつきまとう。

 このような状況で頼りにしたい駅員も、混雑時だと全体的な対応に追われて個別配慮が難しくなる。そもそも手話が通じるかどうかという問題もある。駅員が常駐する改札口まで行けば筆談対応も期待できるが、こうした非常時の改札口には問い合わせや払い戻しの乗客が殺到し、長蛇の列になることが多い。障がいを持つ人に個別配慮したくてもできないのが現状だ。

 兵庫県聴覚障がい者協会のろうあ者らで構成される「鉄道バリアフリー推進検討委員会」が数年前に実施した聴覚障がい者向けアンケート調査によると、約6割の人が「電車利用で不便を感じることがある」と答えた。実際に何に困ったかという問いに対しては、「遅延・停車時の情報不足で行動を決められない」という回答が最多。望むバリアフリー設備としては、「電光掲示板を含む情報の可視化」がもっとも多く、そのほか「コミュニケーション器具の設置」「駅員の常駐」「手話を理解するなど接遇改善」などが挙がっている。

 駅によっては、電車の接近を点滅ランプで知らせたり、窓口に簡易筆談器を常備したりするなど、聴覚障がい者向けのバリア解消に積極的なところもある。一部にとどまらず、全体的に広げていけるかが今後の課題だ。

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