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良品計画の「MUJI ホテル 銀座」、そのしたたかな戦略

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拡張しつつあるダイナミック・プライシング

 ビジネスモデルのなかでも特に最近注目されているのが「ダイナミック・プライシング」だろう。航空業界やホテル業界では古くから使われてきた手法だ。航空券や部屋のように、時間が過ぎてしまうと売れなくなる、つまり在庫として保存できないものについて、価格を下げて売り切ってしまうというものだ。連休など需要が多そうな場合は逆に価格を上げる。価格を上げても売れ残る心配がないからだ。ここで利益を上げる。

 最近は、このダイナミック・プライシングの手法が他分野にも展開されている。たとえば、スポーツ観戦のチケットなども天候によって価格を上げ下げする。雨天のなかで観戦する人は少ないが、価格を下げると、それでも観戦しようとする人がチケットを購入してくれるだろう。突き詰めれば、席ごとに価格を変えることもあり得るだろう。ITの進歩は、そうしたことを可能にしてくれる。

 一方、ダイナミック・プライシングは諸刃の剣でもある。価格を下げる場合であれば問題とならないが、需要が高いとみるや価格を上げるのは「人の足元を見る」行為と取られ、顧客の信頼を失いかねない。つまり、ダイナミック・プライシングには顧客志向の対極とみられても仕方がない一面もあるのだ。

 ダイナミック・プライシングが持つもうひとつの危険性は、商品やサービスの「価格」に対する信頼性がなくなること、あるいは麻痺してしまうことだ。あまりに何度も価格を変えると、そのつけが回ってくる。

 かつて、ある大手ハンバーガーチェーンが、定番商品であるハンバーガーの価格を、キャンペーンだなんだと銘打って数十回も上げ下げしたことがある。その結果、逆に顧客離れを引き起こしてしまった。

ダイナミック・プライシングを無視したMUJIホテル 銀座のしたたかな戦略

 さて、無印良品のブランドを展開する良品計画が4月4日、銀座にホテルをオープンした。MUJIホテルだ。

 同社は、1980年に西友を母体として生まれた。「わけあって、安い」をキャッチコピーとして、安くて良い品を提供しますというコンセプトだ。なぜそれが可能か。

 商品価格を上げる要素のひとつに、ブランディングのための広告宣伝費が含まれる。化粧品などはその典型で、多くの広告宣伝費を投入する。しかし、そのコストは商品価格に跳ね返ってくる。商品の質を上げるのではなく、顧客にとって本来なくてもよいコストが上乗せされるのだ。そこで、良品計画は、そうした「(顧客にとって)無駄な」コストをかけずに良い品を安く提供するという気持ちを込めて「無印良品」というネーミングをしたと思われる。

 その無印良品ブランドで始まったMUJIホテルでは、ダイナミック・プライシングがお馴染みのホテル業界で、珍しく固定価格を採用している。つまり、年間を通して部屋の価格が変わらないのだ。

 果たして顧客はダイナミック・プライシングと固定価格とどちらを好ましいと思うのか、身近なところでアンケートをとったところ、50人中35人、つまり70%が固定価格を好むという結果が出た。つまり、顧客の視点からは、そして価格の視点からは、MUJIホテルが支持されたことになる。

 ダイナミック・プライシングは、今はやりの「AI」の応用としてうってつけの分野だ。一方、固定価格制は、そうした「AI」を必要としないので、その分コストが下がる。MUJIホテルの固定価格制も、無印良品ができた当時のコンセプトをしっかりと守っているように思う。

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