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ビヨンセ、アリアナ、森高千里…性差別にファイティングポーズをとるミュージシャン

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「立場利用して弱い者いじめは卑怯者だわ」と歌う森高千里

 そのなかで筆者が特筆したいのは、森高千里だ。1987年にメジャー・デビューした森高は、アルバム『古今東西』(1990)でオリコンチャート1位を獲得するなど、音楽界のど真ん中で活躍してきた。自ら作詞・作曲を手がけることでも知られ、ドラム演奏の腕前も高く評価されている。

 そんな森高の歌には、女性として生きるうえで遭遇する怒りや出来事を言葉にしたものが多い。特に強烈なのは、「臭いものにはフタをしろ!!」だ。

 〈ある日突然知らない男が 私を呼びとめて〉という一節から始まるこの歌には、ひとりの女性にロックン・ロールを語る男性が登場する。歌詞を読むかぎり、男性は端からコイツはロックン・ロールを知らないだろうと決めつけ、女性に話しかけている。しかし、このナメきった態度は瞬く間に崩壊する。女性は男性をおじさん呼ばわりして、鋭い反論を繰りだすのだ。最終的におじさんの話は木っ端みじんにされ、女性のほうがおじさんよりもロックン・ロールを理解していたという実に痛快なオチである。曲中のおじさんの行為は、いわゆるマンスプレイニングだ。マンスプレイニングという言葉は、性差別といった女性のほうがより深く理解しているであろうことに上から目線で男性が話すとき、あるいは相手が自分よりも知識を持っていると知らずに、知識をひけらかそうとすることに対して用いられる。この定義は、女性を見下しながら偉そうにロックン・ロールを語る曲中のおじさんにピタリとあてはまる。

 こうした愚かな男性は、森高の代表曲“私がオバさんになっても”にも出てくる。この曲は浮気性な男性と付きあう(あるいは結婚している)女性の視点から歌われるが、〈女ざかりは19だとあなたがいったのよ〉といった一節があることから察するに、曲中の男性は若さこそ女性の価値だと信じている。それを知る女性は、男性が他の若い女性と浮気することを心配し、歳を重ねることへの不安も匂わせる。だが一方で、〈私がオバさんになったらあなたはオジさんよ かっこいいことばかりいってもお腹がでてくるのよ〉とも歌われ、女性の価値が若さで計られることへの不満もあるのがうかがえる。この点をふまえると、“私がオバさんになっても”は、エイジズム(年齢差別)に抑圧された女性を描いた歌としても聴けるだろう。アン・ハサウェイを筆頭に、近年は女性が受けるエイジズムを語る者も増えてきたが、そういう意味ではいまこそ聴いてほしい曲だ。

 女性というだけで遭遇する理不尽への怒りを表してきた森高だが、〈なんだかんだいっても女の子 弱いのよ〉(「ユルセナイ」)など、現在の価値観から見れば古い女性らしさもうかがえる。しかし、これまで森高が書いてきた歌詞を読むと、そうした古さを乗り越えようとするひとりの女性も見えてくる。それを長年メジャーで表現しつづけ、いまも第一線で活躍しているその姿は、フェミニズムの観点からも評価できるところが多いだろう。力関係の弱さを利用する痴漢への怒りが込められた“のぞかないで”でも、次のように歌っているのだから。

〈立場利用して弱い者いじめは卑怯者だわ インテリぶってそんなことするのがほんとのワルだわ〉
〈のぞかせないわ意地でも 死んでもおまえだけには 女の気持ち踏みにじって あやまれ〉

先達者が生んだ安室奈美恵、倖田來未ブーム

 日本の音楽とフェミニズムを考えるうえでは、『魔女コンサート』も無視できない。1970年代に3回おこなわれたそれは、「女による、女のコンサート」という言葉を掲げていた。安田南や中山千夏といった出演者だけでなく、小池一子や朝倉摂など裏方にも多くの女性を起用している。いまで言えば音楽フェスみたいなものだ。

 このイベントの重要性は、1970年代の日本の音楽界を知れば理解できるかもしれない。当時はウーマン・リブという女性解放運動の全盛だったが、音楽界ではいま以上に女性蔑視が蔓延っていた。とりわけ目を引くのは、『ニューミュージック・マガジン』(現 : ミュージック・マガジン)1973年3月号に掲載された、「女にとってのロック」という特集だ。女性の読者から反発の投書もあったそれは、特集内の男性2人による対談が「女性蔑視と安手の女性観で貫かれていてヘドがでる」と、ミニコミ誌『女から女たちへ』に寄せられた「ロックは男のもの?」で酷評されている。

 国語学者の寿岳章子による『日本語と女』も、当時の状況を興味深いデータと共に示している。この本には、「うたの中の女」という章がある。流行歌で描かれる女性像を学生たちと分析し、受動的でひ弱な女性ばかりが登場することを指摘したものだ。その分析結果を受け、寿岳はこう結論づけた。

「もはや、私たちは歌謡曲の中の女のあれこれに堪能した。歌謡曲、演歌、フォーク、すべて同一パタンの繰り返し。そしてそれはあまりに貧困な偏った女性像しかなかった」

 『日本語と女』の出版が1979年であることを考えると、対象となった流行歌には1970年代の作品も多く含まれていると思われる。このことからも、当時の音楽シーンにおける女性へのステレオタイプは酷かったと推察できるだろう。これらのさまざまな事例をふまえれば、女性たちの主体性を伴って運営された『魔女コンサート』がいかに革新的だったか、わかるというものだ。

 日本の音楽界にも女性像を塗りかえてきた先達はいる。その者たちが積みあげてきた努力も、現在の日本における音楽とフェミニズムの交差に少なからず影響をあたえていることは、もっと知られるべきだ。これらの試行錯誤がなければ、多くの同性から支持されアムラーブームを巻き起こした安室奈美恵や、〈今の世の中は男も女も関係ない 今は女が強いんだから〉(「cherry girl」)と歌う倖田來未など、女性たちをエンパワーメントできるアーティストもいまほど目立たなかったかもしれない。蒔かぬ種は生えぬのだ。

時代を変える音楽は生まれるか

 最後に、筆者が想像する未来を述べたい。冒頭でも書いたように、CHAIは戦うことに否定的だ。ところが、今年2月にリリースされたセカンド・アルバム『PUNK』は、その姿勢が変化しているのでは?と思わせる。収録曲を聴いてみると、〈誰の好みも聞く耳はないわ〉(「ファッショニスタ」)、〈わたしは黙らない!〉(「Feel the BEAT」)といった、前作『PINK』と比較して少々強めの語気が多いのだ。もしかすると、フェミニズムの観点で聴かれがちなことに、少なからず影響を受けているのかもしれない。海外の反応や記事を受けとめていると思わせるユナとユウキの発言もある。i-Dのサイトでは、「patriarchy(家父長制)」という言葉も登場するCHAIの記事を読めるが、そうした解釈もフィードバックしているのではないか。

 CHAIの変化は、日本の音楽とフェミニズムの交差において、怒りやファイティング・ポーズへの抵抗感が薄れつつあることを感じさせる。より明確な主張を紡ぎ、それを音楽として表現する姿勢。この姿勢がもっと広がれば、日本からも時代を反映した音楽にとどまらない、時代を変える音楽が生まれるだろう。

参考文献

Andi Zeisler『Feminism and Pop Culture』2008 Seal Press
上谷香陽『フェミニズムとガール・カルチャー(Girl Culture) 雑誌 Sassy の語り方』2012
上野千鶴子 小倉千加子『ザ・フェミニズム』2002 筑摩書房
小倉千加子『増補版 松田聖子論』2012 朝日新聞出版
『女・エロス』No.7 1976 社会評論社
『女から女たちへ』No.8 1973 「ロックは男のもの?」(収録 : 溝口明代 佐伯洋子 三木草子 編『資料 日本ウーマン・リブ史Ⅱ』1994 松香堂書店)
Kara Jesella Marisa Meltzer『How Sassy Changed My Life: A Love Letter to the Greatest Teen Magazine of All Time』2007 Farrar, Straus and Giroux
北村紗衣『男たちはなぜ「上から目線の説教癖」を指摘されるとうろたえるのか マンスプレイニングという言葉の持つ力』2018 現代新書
栗原葉子『歌の中の母親像 瞼の母からわがママ冬子へ』(収録 : 編集・井上輝子 江原由美子 上野千鶴子 編集協力・天野正子『日本のフェミニズム 7 表現とメディア』1995 岩波書店)
古茂田信男 島田芳文 矢沢保 横沢千秋 編『日本流行歌史 上』1994 社会思想社
古茂田信男 島田芳文 矢沢保 横沢千秋 編『日本流行歌史 中』1994 社会思想社
古茂田信男 島田芳文 矢沢保 横沢千秋 編『日本流行歌史 下』1994 社会思想社
寿岳章子『日本語と女』1979 岩波書店
Joanne Hollows Rachel Moseley 編『Feminism in Popular Culture』2005 Berg Publishers
舌津智之『強制的異性愛の彼岸 : 七〇年代流行歌とジェンダーの政治学』2000
舌津智之『どうにもとまらない歌謡曲 七〇年代のジェンダー』2002 晶文社
中村桃子『ことばとフェミニズム』1995 勁草書房
『ニュー・ミュージック・マガジン』1973年3月号 ニューミュージック マガジン
『「魔女コンサート」アッピール』(収録 : 溝口明代 佐伯洋子 三木草子 編『資料 日本ウーマン・リブ史Ⅱ』1994 松香堂書店)
溝口明代 佐伯洋子 三木草子 編『資料 日本ウーマン・リブ史Ⅱ』1994 松香堂書店
よみうりテレビ『LIVE MONSTER(ゲスト : 森高千里)』2014年9月28日放送分

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